やくたたずの恋
 ここで、彼の言うことを聞かない、という選択肢は見当たらない。あったとしても、目に見えない場所に、雛子自身が隠してしまっている。
 彼の言うがままになれば、結婚ができる。そして、自分も母も、「役立たず」から脱却できる。単純だ。風が吹かなくても桶屋が儲かるぐらい、単純な話だ。
 ならばやはり、彼の言うことを聞くべきだ。それしかない。
 雛子はゆっくりと手を動かし、腰で結んだリボンに触れる。ワンピースのベルトの役割を果たしているそれを外せば、カシュクールがはだけて、下着の姿になってしまう。それを知りながら、雛子はリボンの端を凍える指で引っ張った。
 しゅる、と軽やかな音を漂わせ、リボンが外れる。腰から垂れ下がる長いリボンが、流れる血のようにカーペットに落ちた。
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