やくたたずの恋
12.恋せよ、乙女。(中編)
 窓際のカーペットには、窓から落ちた外の光が作る、美しい四角形が映し出されていた。
 11階にあるこの部屋と外の世界を繋ぐものは、これしかない。車の過ぎ去る音や若者たちのはしゃぐ声も、ここまでは届かないのだ。
 いつもなら騒音に過ぎないものも、今はありがたいものに思えてくる。ぎゃははは、と理由もなく笑う若者の声に紛らせて、自分も笑えればどんなにいいか。
 だけど今の恭平の前では、そんな望みは虚しく滑稽だった。怒りで形作られている彼の前で笑うなど、ギャラリーのいない舞台に上がる道化師のように、こちらが笑いのネタになってしまうようなものだ。
「ほら、早く脱げよ」
 恭平の低い声が床を這い、雛子の足下に冷たさとして伝わる。それは、彼の本気を表していた。
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