やくたたずの恋
20.美女と、老人。(前編)
 運転する男性の姿にキュンとする女性は多い、と聞いたことがある。
 おっさんのものとは思えない、細く長い指。それがハンドルを操作するのは、確かにセクシーだ。しかも安全運転なので、好感度も高い。だけど、キュンともズキューンとも来ない。鳩が豆鉄砲食らったぐらいの衝撃しかない。
 やはり、おっさんを好きになる道のりは遠いようだ。雛子は運転をする恭平の姿から目を離し、助手席のシートに体を埋めた。
「今回のお仕事って、志帆さんのご主人とお話しするだけでいいんですか?」
「ああ。それ以上はする必要もないし、する義理もない。……つーか、それ以上は絶対にするな」
 妙な力強さを持つ恭平の言葉に被せて、カーナビの音声案内が流れる。右に曲がれ、と指示をする女の声は、車を高級住宅街の中へと誘っていった。それは、志帆の自宅へと向かう道のりだ。
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