やくたたずの恋
 椅子に座った牛……ではなく恭平は、日課の「巨乳チェック」をするために、グラビア雑誌を眺めていた。デスクには、彼がいつも使っているマグカップが置いてある。
 目視確認、OK。雛子はバッグから「例のブツ」を取り出し、彼の目の前へと置いた。
 ことん、と音がして、恭平はグラビアから目を移した。さっきまで存在しなかったものが、なぜか目の前にある。赤いマグカップ。これは一体何なのか?
「これ、恭平さんのマグカップです! どうぞ今日から使ってくださいね」
 まずは作戦の第一歩。雛子はセールスウーマンとしての眩しい笑顔を、恭平へと見せる。客である恭平は、「押し売りお断り」と、現在使用中のマグカップを持ち上げた。
「……俺、自分のカップあるんだけど」
「だから、今日からはこれに変えてください! これ、私とペアなんですよ! 二人でお揃いのものを使っていると、何だか幸せな気持ちになりますよねー」
 これは雛子が考えた、「恭平を幸せにする作戦」の一つだった。
 自分と結婚することを「幸せ」と言った恭平。ならば彼を、その幸せへと一歩でも近づかせたいのだ。
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