やくたたずの恋
28.恋、はじめました。(後編)
 好きな人に会える。それだけで出勤するのが楽しくなってしまう。満員電車の殺人的な混み具合も、オヤジの息の臭さも、愛おしいほどだ。
 これってやっぱり……「オフィスラブ」って言うのかなぁ?
「オフィス」も「ラブ」も、雛子にとってはどちらも『Office Camellia』が初体験の場だ。ならばその事務所は、華麗なる恋の闘牛場になる。恭平という愛しい牛をこちらに向かせるため、ヒラヒラと赤い布を見せつけなくては。
 その作戦は、準備の段階から既に始まっているのだ。熟練の兵士がターゲットの隙を狙うように、雛子は『Office Camellia』の事務室へとやって来た。
「おはようございます!」
 無難な挨拶をして、部屋の状況を確認。ソファには悦子、デスクには恭平がそれぞれ存在している。ならば直進するのみだ。雛子はドアからデスクへと足を滑らせた。
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