やくたたずの恋
36.恋を、終わらせよう。(中編)
 暗い部屋に、ぽつりと小さな赤い光が灯る。恭平が咥えた煙草に点いた火は、ただそこに立ち止まるだけで、何も照らし出そうとはしない。明かりも点いていない、この事務室の中では尚更だ。
 恭平は一息煙を吐き出し、ソファに隣り合って座る志帆を見た。
 いつからだっただろうか? 志帆が、部屋の明かりを点けることを好まなくなったのは。この部屋にも合い鍵を使って入り込むことは多いが、どんな夜中でも電気を点けずにいるのだ。
「この方が、あなたが私を見つけやすいと思うから」
 そう言って微笑む志帆は、確かに闇夜の月のように光り輝いて見えたものだった。
 そして今は、そんな彼女の気持ちが分かる気がした。明るい場所では、皆が美しく輝き、地獄の住人である自分たちの存在は薄れてしまう。
「住めば都よね」
 暗闇の中に、志帆は明るい声を吐き出す。
「地獄だって住み続ければ、悪くはないわ。そこにはあなたもいるし。それに、地獄への道連れは、あなただけではないもの」
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