やくたたずの恋
「これで、いいですよね?」
「ああ、十分だ」
 書類をチェックした恭平の表情は、珍しく真面目なものだった。それを見れば、影山社長から渡された写真に写っていたのは、確かにこの男なのだ、と確認できる。
 それによく見れば、この男の顔立ちは悪くない。
 ……というよりも、この「おっさん」の顔を間近ではっきりと見たのは、これが初めてかも知れない。煙草の煙の中に浮かぶ彼の顔を見ながら、雛子は、ほほぉ、と心で唸ってしまった。
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