やくたたずの恋
「分かったから、さっさと泣き止みなさい。そして、みんなと一緒に控え室に行っててちょうだい。後で私が、仕事用のメイクをしてあげるから」
 悦子は女たちに、控え室に雛子を連れて行くよう指示をする。皆が出て行き、女たちの高い声が一気に遠ざかった。やっとのことで静まりかえった部屋の中で、悦子はソファに腰掛ける。
「……影山ちゃん、一体どういう風の吹き回し?」
「何が?」
「あんなお嬢ちゃんを雇ってさ、しかも『味見』だなんて」
 恭平は、何も答えない。彼の口から吐き出された煙だけが、部屋を漂って、空気清浄機に吸い込まれていく。そして、色のない瞳が、その煙の先を追っていた。
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