やくたたずの恋
 ムカつく。悦子は大きく息を吐き出し、髪を掻き上げた。
「あんたのことだもの、あのヒヨコちゃんを見て、あの人を思い出したんでしょ?」
 それでやっと、恭平は表情を動かした。細い眉がピク、と何かを探知したように蠢く。
「あの子、志帆さんに似てるっぽいもんね。可愛らしくて、健気で、純粋で、しかも父親の言いなりだなんて」
「……だから、何だって言うんだ?」
 やっとのことで聞くことのできた恭平の声に、悦子はわざとらしく「なーんでもないですよー」とおどけてみせた。
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