ラヴィ~四神神葬~
Ⅰ章 序奏
 燃ゆる焔の色は緋―

 時に激しく、時に静かに揺れるかがり火が冷暗な回廊に影を落とす。

「遂に黄泉返ったか・・・」
 唇から洩れた白い息が闇に溶ける。
「彼の御方の《力》が日増しに高まっていくのを感じる」
 赤い火の粉が虚空に噴き上がった。まるで、そこに意志が宿っているかのように。焔は命ある生き物のように揺れうごめく。
「もはや《覚醒》は時間の問題・・・」

「恐れながらそのことに関しまして、お耳に入れた気ことが」

 カツン、カツン・・・

 回廊に硬質の靴音が響く。
 祭壇に祭られた銀の鏡が、金髪の少年の姿を映した。
 深淵の闇が支配する祭壇に祈りを捧げる男の膝元に少年はひざまずき、そっと耳打ちした。

 男は静かに瞳を開き・・・
 そして、すがめた。

「哀れな・・・」
 蛇の舌の如く、チロリとうごめいた焔に独言は掻き消えた。
「して、このこと《お方様》には何と伝えましょう?」
「必要あるまい。無用な心配をおかけ致したくはない」
「愚問にございました」
 裏に潜む真意に気付いてか、少年は頭を垂れた。

 鏡を取り囲むかがり火が宙高く火柱を噴き上げた。火の蛍の舞う薄闇の中で、音もなく影はひるがえった。

「千載一遇のこの好機を逃すな。彼奴らに遅れをとってはならぬ」
 火の粉が漆黒の前髪をかすめて、ひらぎ飛んだ。
 よどみのない黒瞳が焔を見据える。

「彼の御方のお命、我等が貰い受ける」

 舞い散る火の粉が夏の終わりを告げる蛍のように、闇に消えていく。
「お前の裁量に全て任せよう」
「ははっ」
 金の髪がさらりと滑り、石の床に触れる。少年が主君に無二の忠誠を誓う。

 ―ただし・・・。
 と、男は刻んだ。

「眠れる虎は決して起こすな」

 闇が燃え、焔が散る・・・
< 2 / 53 >

この作品をシェア

pagetop