ラヴィ~四神神葬~
Ⅱ章 再会は夏の日

1節

 ―心頭滅却すれば火もまた涼し。

 ・・・とは、五百年前だからこその名言だ。

 地球温暖化、森林破壊、海面上昇、温室効果、オゾンホール、クーラー完備が常識のご時勢だったならば、きっと快川紹喜(かいせんじょうき)は世に現れなかったろう。

 いや、そんなことはどうでもいい。
 今は日本史じゃない。数学だ。
 静寂の中でひたすら思考をむしばむ、暑さ。テストという状況下で、まさに致命的危機である。

 この猛暑は!

 全開の窓からは風一つ入らない、サウナ状態の教室だ。熱中症で一人や二人倒れても不思議はない。
 熱気余りある教室で、汗と努力と結晶、マークシートを黒く塗りつぶすだけの苦心惨憺たる地道な作業は、結局残り時間五分のラストスパートもできぬまま終わった。

 タイムアップを告げるチャイムが無情に鳴り響く。
 こうして、貴重な夏休みの一日を返上して受けた模試は終了した。

 結果は神のみぞ知る・・・

 ・・・何はともあれ、これでサウナの教室から解放されたわけだ。
 筆記用具をカバンに押し込むと、クラスメイトへの挨拶も早々に、少年は真っ先に教室を飛び出した。二学年全員参加模試のため、学校側が試験環境に配慮したおかげで、今日はクラブ活動が行われていない。
 校舎は貸切状態だ。
 廊下を全力疾走しようとも人とぶつかることはない。

 ・・・はずが―

 突如、予測不能の事態が彼を襲った。
 不測のアクシデントは前触れもなく少年の右腕をつかんだ。バランスを崩して転びそうになる。
 ・・・が、持ち前の運動神経で、その長身からは思いもよらぬ身軽な動きを見せると、難なく体勢を立て直した。長期休暇でほこりっぽくなっている廊下で、制服のすそを汚すこともなく。

 それにしたって、廊下を暴走する方も非常識ではあるにせよ、有無を言わさず力ずくで止める方も非常識極まりない。
 全く誰だ?
 こんな危険行為を犯すのは。
 少年が振り返る。

 ・・・ところが眼前に飛び込んできたのは、巨大タッパーだ。
 大量の、それもウサギさんりんご入りの・・・?
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