恋が始まるいっぽ前!
恋が始まるいっぽ前!
秋晴れの…教室。

私は、まるで海の上に浮くみたいに、フネを…漕いでいた。

そう…、睡眠という名の…ボートにのって。


「おい、三船!」

あなたの、そんな声に…

私は、目を覚ました。


頭に…何かがぶつかった感触。


『……カモメかしら?』


いつの間にか……身につけていたはずの、浮き輪が…、ない。


「あれ、浮き輪は?」


「バカンス中悪いけど、授業終わったら職員室に来い。」


目の前にいたのは…、水着を着た監視員……じゃなくて。スーツを着込んだ…イケメン。

にこりとも笑わず、私を見下ろしていた。


「まだ5分しか泳いでません。」


そんな…言い訳を相手されることはなく。


彼が差し出したタオル(注:ハンカチのこと)で……ワシワシと顔を拭いた。


どうやら、ヨダレが出ていたらしい。


「ニシハル、紳士~!」



ここは…学校。
ようやく、そう気づいたのは。


『ニシハル』という呼び名と…。

タオルから香る、タバコの匂いが…鼻についたから。



彼はまるで何事もなかったかのように…、さっさと教壇へと戻って行って。

そんな姿に…

私は、苛立ちすら覚えていた。



『ニシハル』こと、仁志日陽(ニシ ハルアキ)は…

数学の…教師。

生徒から、絶大な信頼を得ている…人気者。


黒い癖のある髪の毛に、

口元にある小さなホクロがセクシーで…

誰もが羨むようなルックスの、持ち主。



なのに…、私は。

どれもが…苦手だった。



数学の授業。

タバコの…香り。


それから、何よりも…

ニシハル、

貴方のことが。
< 1 / 14 >

この作品をシェア

pagetop