鬼燈
――やっぱり、単なる酔っぱらいじいさんの譫言だったのか。


そう溜め息を吐いて元の道を戻ろうとした時、視界にちらりと動くものを見た。


ゆらり。


朧気に揺れる蝋燭の明かりのようなものが浮かんだ。


――まさか。


酒に酔いながらも未だ保っていたなけなしの理性が否定をする。


もう一つ、橙色の明かりが揺れた。


――本当に。


じっと見入ることしか出来ない私を嘲笑うかのように、明かりは一つ、また一つと浮かび、小路の上空へと泳ぎ始める。

程なく、明かりは小路の左右に点り、闇の中にあった通りの奥までぼんやりと照らし出した。

橙色に照らされた小路は、私の知っている小路よりもずっと先まで続いていた。

ゆらゆらと不安定に点っていた明かりは、やがて居場所を見つけたように留まると、その姿を明らかにした。


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