Golden Apple
ノックオフ




烏がいた。

あたしの家の前。人集りの中、燃え上がるそれを見上げていた。

違うな、炎を見ていたようだった。

この街の神様。

だったら、願いを叶えてくれるのかもしれない。

繋がれているコウヅカの手を解いて、烏に近づく。全身真っ黒の男は、感情のない眼をこちらに向けた。

す、と冷たさが身体に入ってくる感じがした。

願いを叶えてほしい。
あたしの家族を助けて。
優しいお兄ちゃんを、飲んだくれの母親を、賭けに溺れた父親を、助けて。

そうして、何事もなかったかのように、平和で普通の日常を始めて。

その為にだったら、あたしの命すら惜しまないから。



バサッと大きな羽音。黒い羽根が舞ってくる。

烏が翔んでいってしまった。




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