いろんなお話たち
もしもし恐怖症
「……で、デンワですか」
問うた自分の言葉はカタコトで、唇は片方がヒクヒクとつりあがっていて、目だってきょどっていて…おそらく顔全体で拒否反応を示していた。
しかし相手はプリントの方に顔を落としていたので気づいていない。
「うん、」
と言って、プリントをじっと凝視したまま体をくるりと前に向け、どこかへ行ってしまった。
……周囲では管楽器独特の音が鳴り響く。
センパイである彼女は、私にプリントを渡した後、自主の練習に戻った。
私は今日早退する。
荷物はまとめて、傍に置いてある。
センパイに挨拶して帰ろうかと思っていたところだった。
すると、プリントを渡されたのだ。
一枚の紙。
一番上には「連絡網」の字。
そしてその下には並ぶ番号。
ほかの部員の番号。
番号は携帯だったり、自宅のだったり……いやいやそんなことはどうでもいいけど。
いよいよ来たのだ。
連絡網を渡された日が。
小学校の頃はいい。
親同士がやりあうのだから。
しかし中学に入り、部活動に入った今……。
生徒同士のやり取りに、使われる連絡網が、ついに! …私の手に。
「………」
どこかの組織に属するとはこういうこと。
部活は親の意思はない。
そりゃそうだ。
私は自分の意思で、楽器をやろうと思って、吹奏楽に入ったんだから。
自分で決めたことなんだから……自分で連絡をしあうのは当然のこと。
だけど……。
「(うーん……)」
私には最大の壁がある。
連絡網という線をすんなりと相手と交わせない問題が。



私は電話が苦手なのだ。




……なぜ、電話がダメか。
簡単なこと。
私は昔から、人付き合いが上手ではない。
…から。
小さい頃から母の後ろに隠れてた私。
人と顔を向けて話すだけで、耳まで真っ赤になって俯いてしまう私。
心やさしい人は「テレ屋なのね」と言ってくれるけど、さすがにそれも年を重ねると……。
人と話すことに緊張するのは、その人の顔を見るから。
その人と、目が合うから。
見つめ合うと、こちらの気持ちが見透かされている気がして、見た目だまっているのだけれど、実は頭の中では、ものすごく考えている状態で、つまり、よからぬことを勝手に私は考えてしまい、私の心は舞い上がるだけ舞い上がって、……挨拶すら交わせないまま、沈黙が訪れ会話が終了してしまう。
そもそも成り立たないのだ。
電話だと、「顔が見えないんだからいいじゃない」と母は気楽に言うが、…残念、実際のところはそうでもない。
顔が見えないと逆に怒ってるんじゃないかとかまたも、いらぬ方向に私の中で脳内変換されてしまう。

…………。
………………。
……ね、どうしようもないでしょ。
こんな話、笑い話になるならいいんだけど……。
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