いろんなお話たち
逃亡届
「えーと…『職に就くってナニソレおいしいの?』…と」
昨日の就活結果を今朝になってからブログに更新。
内容は聞くな。
今日はどうする、どうせなら遊びに行くかと伸びをしてると不意に携帯の背面に光が灯った。
あ、いや、気付かなかっただけで実は前から光ってたかもしれない。
「……What?」
……おっと。
両親とも、先祖の代に至るまで生粋の日本人なのに思わず英語が出てしまった。
朝イチで光ってたから誰だこんな早くからぁーと思ってみてみたら高校時代の友達、で。
その子は私より2つ上なんだけど事情があって同学年になって。
ぽやや~んとした性格の子で、出るトコ出てるし女の子らしいしめちゃ可愛い子なんだけど……。
その子からの、メールの、内容。

**/06/06 04:20
From:お姉さま。
Subject:無題

ごめんね。
みんなにも送ったんだけど、これからは一緒に遊んだりすることができません。
と、いうよりそういうお付き合いができません。
今までどうもありがとう。
まなか、元気でね。

まず時間帯。
朝4時って早くね?
いや、あの子不思議な子で一睡もしなかったりなんだり、あとは大好きなカラオケを夜遅くからエンジョイする子だから(突然の夜中の電話などでこちらも迷惑を体験済み)さほど気にしなくていいとしても。
なななな、なんだ……コレ。
小中とお姉さま(私はそう呼んでる)は対人恐怖症、みたいなものがあったのと言ってた。
でも高校で、私らと会って大丈夫になったって。
どちらかというと男の子より女の子が嫌いなんだけど、そういうのも平気になったんだよって言ってた。
特に私のことは……他の子は「ちゃん」「くん」付けでも、私のことは呼び捨てだったのに。
どうし――どうして。
束の間脳内が凍結した後で。
私の次にお姉さまと仲が良かった合田(♂)に電話する。
『もっ…もしもし!?』
『………んぁー? 誰?』
『ちょっ、合田! 私っ、カシイよ!』
『……まなか?』
ぐはぁ! わ、わざわざ私は姓を名乗ったというのに!
こいつの電話越しの声はセクスィーすぎるから名前で呼んでほしくないのに…!
しかも寝ぼけだからか吐息! 吐息と一緒にすなぁぁ!
服の中心をがしっと掴み、瞬時にドッドッと動きが早まる心臓を落ち着かせつつ、
『そ、そうよー久しぶりっ! あのねっ、お姉さまのことで聴きたいことが』
『お姉…? あー、渡辺か。何、お前んとこには今連絡来たのか?』
『うんっ。この頃ね、遊び行ってないからそろそろカラオケでもお姉さまと行こうかな―と思ってたのよ。それがなんか今日携帯見たら朝方にメール入ってたみたいでっ。お付き合いやめます、とか書いてあったのよ~。別に男女の付き合いとかレズとかじゃないけど、距離置かれるとか急に言われてもショックでぇ―――……』
『……そうなんだ。俺のトコには卒業してすぐ入ったけどな。他の奴らもそうらしい』
『え…? で、でも、この2年間バースデーメールとかはやり取りして…合田はしてなかったの?』
『連絡すんな、って言われてるのにわざわざするか? …まぁ、まなかは特別だったらしいけど?』
『(だから名前で呼ばないでっ!)トクベツ…』
『でもお前んとこにも連絡来たんじゃよっぽどだな。とにかくさ、メモリとか早く消した方がいいよ』
『えぇぇぇ…! 合田って意外と薄情なのね! この冷淡! 非人情者!』
『うるせー。連絡しねぇのに残しといたって意味ないだろ』
『でもっ! 思い出とか思い出とか思い出とかぁぁ』
『(…朝から毎度賑やかな女だこと)……つーかさ、話変わるけど。』
『うぅ……なによ』
『お前今日暇? って聞くまでもねえよな。だったらさ、俺休みなんだけど、どこか』
『行きません。ゴメンナサイ』
ぷつっと通話を切ったあと、即座にボタンを長押しし、電源を切る。
合田の外見については申し分ない。
一緒に並ぶと寧ろこちらが気おくれするぐらいで。
だが……奴はその容姿を武器に、今までの武勇伝が多すぎるのだ。
なんの武勇伝って、女をオトした数だ。
友人たちの中でも彼の魅惑に引っかかったものは多い。
お姉さまでも。
でもそういう風に魂胆見え見えな人間はどっちかってゆーと嫌いらしく、なぜか「まなかは俺に気がないだろ?」とかの理由で高校時代はずっとツるんでたけど。
今でもそうだけど。
口を開けば「今付き合ってる女は~」と始まる話など、はっきり言ってつまらない。
しかも名前呼びやめてって言ってるのに。
電源を切るまでは少しいきすぎかもしれないけど、こちらがフリーとわかれば奴は執拗に絡んでくるからな……。
「……ふぅ」
にしても、お姉さま本当にどうしたんだ……。
「…会いに行ってみようかな。今日は天気いいし…」
窓を見ると、青い青い空。
鳥が一羽、気持ちよさそうに飛んでるのを見て、私は決めた。

 §
< 78 / 92 >

この作品をシェア

pagetop