いろんなお話たち

窓から見るときれいな満月が見えた。
蝙蝠が暗い海を飛んでいた、
……静かな夜。
目が覚めたついで、枕元にある時計を見る。
秒針、時針共に12の位置で止まっていた。
……ああ、もうそんな時間か。
奴が、くる。
静かな空間にカチャリと開ける音がした。
何度部屋に堅固な鍵をつけてくれと母親に頼んだことだろう。
母は解っているはずなのに、ただ泣きそうな顔で「ごめんね」と謝るだけ。
内鍵をしても、10円玉で簡単に開けられるドア。
頭まですっぽりと毛布をかぶると、男の足音がした。
ベッドの傍までくると、足が止まる。
はあはあと荒い男の息。
……もう興奮してるのか。
眉を寄せると毛布が剥ぎ取られた。
開けた視界に体がこわばる。
男がニヤリと私を見下ろす。
寝台に上がってくる。
ギシリ。
ああ……やだな、また、か。
また始まるのか。
最初は抵抗していたけど、今はする気にもなれない。
空ろに天井を見上げる私に、男が覆い被さった。
―――――眠れない晩が、また一夜。
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