【完】イケメン*眼鏡*ランデヴー
「あー、睨んでるつもり、ないからね。髪の毛乾いたら化粧するし、あんま見ないで………って永太?」



すっぴんを見られるのはあまり好きじゃないから、私は俯くように永太に背中を向ける。



しかし、後ろの永太が私の両手を掴み、自分の胸板に頭が引っ付くように引き寄せるもんだから、不覚にも、ドキっと心音が早まる。



永太は私の顎を掬い、上に向ける。



鏡越しに、眼鏡をかけた永太と、目が合う。吸い込まれそうな、黒の艶やかな瞳。



「……貴方には、自然学習の前に、化粧の仕方を教え直さなくては、ならないようですね。」



「は…?」



永太は私の耳元に顔をずい、と寄せて、妖艶に笑う。



「化粧、自分でしないで。澪にしてもらいなさい。あいつの母親は美容師ですし、あいつ自身、来年からそちらの専門学校に通います。上手いですよ。」



「や…でも、私、アゲハ系のメイク、下手くそではないと、思うよ。」



「素材にもう少し自信を持ちなさいということです。………訂正します。悠莉は、顔面ジュラシックパークでは、ありませんよ。」



昨日は全く発さなかった甘ったるい声で耳元に囁き、後頭部に『ちゅ』と小さく口付けを落とした永太は、何食わぬ顔で歯磨きをし始める。



私はというと………その、永太の一連の動きに心臓をバクバクさせ、それに比例して、口をパクパクと動かしてしまっていた。
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