君影草
「私がいつも言ってるイタリアンのお店でいいですか」

口元を少しだけ緩ませて頷く北河に、ああ、こういう表情が好きだな、と思いながら

「じゃ、行きましょ!!」

と北河の手を引きながら勢いよく歩き出す

困惑した北河の声が大きなロビーに響いていた


奈々絵に連れてこられたのは、店内が少し薄暗くてとても落ち着いた雰囲気のある店だった

奈々絵が適当に頼んだピザやサラダ、ウィンナーを一通り食べ終えた後、

「久々だな、こうやって食事したの」

北河が空になった皿に視線を落としながらしみじみとつぶやく

その声には少し寂しさが混ざっているように思う

「それって彼女さんが入院されてからはってことですか」

「え?ああ、うん。なんだかんだでこの一年半は忙しかったって言うか、あっという間だったって言うか」

どうやって結衣のいない生活に慣れるか

それが北河に課せられた課題だったように思う
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