ユキ色
あたしの彼氏は浮気をしていた。
あたしと相手の女の子と、そして自身を傷つける想いを抱えていた。
だけど、本当は浮気なんかではない。
新たな恋をしていただけ。
ばかだと思う。
それでも、どうしてもあたしはユキを憎むことができない。
残酷なくらいに優しかった彼を。
泣きそうになったけど、ぐっと吞みこんで息を吐く。
一波乗り越えたら、もう涙は出そうにない。
好きという気持ちと比例して涙が出るわけではないんだと、ひとり知る。
ユキが消えた人波をただ見つめてどれだけ経ったんだろう。
静かに踵を返した。
さよなら。
名前の通り、そこに『有る』だけであたしに『希望』を与えてくれた人。
寒さと一緒に忍びこんでくる未練を断ち切るように、マフラーを強く強く巻きなおした。
彼のぬくもりが残る左手に、ふわり、じわり。
何度も何度も溶けていく。
それと同時に、涙の代わりとでも言うように雪が頬を伝った。
苦しい。
だけど、いつかこの想いも溶けるように消えるのだろう。
ユキ色に染められたあたしが雪色に染めなおされるまで。
あたしはまだ、ひとりで。
fin.