城跡に咲く花〜使用人×王女〜
透き通った瞳が、なによりも雄弁に彼女の思いを伝えていた。

わたしのために死ぬことはないと。


けれど、感情がどうしてもついていかない。


嫌だ。

彼女を残してゆくなど考えられない。


「グレン、…ルシアを頼む。どうか無事に逃がしてくれ」

切に見上げてくる瞳を受け止めて、グレンは言葉が出なかった。


ルシアとはユリアの妹の名で、まだ5つの幼子だ。

いまは侍女の腕の中で泣き疲れて眠っている。


彼女は妹姫を自分に託すと言う。

絶望の中、グレンはやっとの思いで口を開いた。

「———承知しました」


彼女をここに置いてゆく。

誰よりも愛しいひとを———


それが彼女の望みだというのなら、グレンに他になにができるだろう。

頷くことしか選べるはずがなかった。

グレンは使用人で、ユリアと対等な関係になどなれはしないのだから。
< 8 / 36 >

この作品をシェア

pagetop