それでも、僕は恋をする。
「はい」
そう言うと、母さんが紅茶と茶菓子の載った盆を持って部屋に入ってきた。
「どうぞ。休憩してくださいな」
「あ。いつもすみません」
直海さんは母さんの方を向いて、頭を下げる。
「いえいえ。お世話になっているのはこちらですから」
母さんは嬉しそうに目を細めている。
快活で礼儀正しい直海さんは、母さんに気に入られていた。
母さんは、紅茶と茶菓子をテーブルの上に置くと、「ごゆっくり」と言って部屋を出て行った。
「なんか、いつもいつも申し訳ないな。お茶出してもらって」
直海さんは母さんが出て行った扉を見つめながら、申し訳なさそうに呟いた。
「いいからいいから。直海さん、休憩しよ」
「ああ」
僕と直海さんは床に腰を下ろし、母さんがいれてくれた紅茶をすすった。
直海さんは湯気で眼鏡が白く曇ったので、眼鏡を外してテーブルの上に載せた。
「直海さん、目、大きいね」
「え?そお?」
「うん。眼鏡外すと全然感じが違う」
まじまじと直海さんの顔を見つめていると。
「麟太郎くん」
直海さんは僕の肩に手を置き、
「そういう台詞は、女の子に言ってやんなさい」
と言って、にやりとした。
その言葉に、僕は一瞬眉をひそめてしまった。
それを見逃さなかった直海さんに、
「ん?どした?」
と突っ込まれ、しまった、と後悔したけれど、
「え?なんでもないよ」
と、笑ってごまかした。
「ふぅ~ん」
直海さんは、じろりと横目で僕に冷たい視線を送ってきたが、僕はすまして紅茶をすすった。