相容れない二人の恋の行方は
 恋人とベッドを共にし目が覚めたら朝だった、なんてシチュエーションはよく映像で目にしたり耳にするけど、それは嘘だと思う。

「真由子~何か着た方がいいよ。そのままじゃ風邪ひく」

 風呂上りに着ているであろうバスローブを身につけた新谷がベッド脇に座って私に言う。
 私は布団をかぶったまま天井を見つめ微動だにしなかった。
 全身の倦怠感、痛み、冷めない熱、そして……さっきまでの情事を思い出したら死ぬほど恥ずかしい。眠れるわけがない。

「ボクの服はサイズが合わないし……バスローブなら洗濯済みのものがまだあるよ」

 新谷の動く気配を目で追って、ようやく体を横に向ける。
 すると部屋の奥に明かりが点るとシャワールームが目に入った。そこから新谷がバスローブを持って出てくる。

「部屋に……シャワーついてるんですね」
「うん。トイレも。部屋でもいつもシャワー浴びたあとはいつも適当にバスローブ羽織って過ごしてる」
「そうだったんですか……知らなかった」
「こんな格好でリビング行かないし寝るときはちゃんと着替える」

 結構な期間新谷と同居しているけど、水回りで新谷と鉢合わせることはなかった。掃除もいつも自分が毎回使ったあとに済ませていたから汚れもたまることなく使っているか使っていないかなど分からなかった。

「時々湯船につかりたいときはバスルームも使うけどね」

 たぶん、私に気を遣ってくれていたのだろう。分かりにくい、伝わりにくい、彼らしい彼なりの優しさなのだ。
 自分の顔に乗せられるバスローブからは乾いた洗濯物の良い匂いがする。新谷と同じ匂いだと思った。

「……まだ、ちょっと起き上がれないので……」
「仕方ないな、着せて……」
「き、きゃーーーっ! やめてください! 何を!?」

 突然布団をめくられて声を上げて布団をひっぱって抗議する。

「照れてる?」
「当たり前じゃないですか!」
「その照明結構明るいだろ? いつもこの明かりで寝てるんだけどさ」

 新谷は再びベッド脇に座ると照明を指で差した。
 間接照明一つで、さすがに広い部屋のすべては見渡せないけど近くのものは十分に目で見て確認できる明るさだ。身体の隅々まで……十分に見える明るさだ。
 布団をすっぽりとかぶり新谷に背を向けると、視界にデスクの上や乗り切らず床に置かれた大量に書物が目に入った。

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