相容れない二人の恋の行方は
 それから数日後、クラス委員の用事を済ませ部活動で残る生徒以外はいない人気の少ない校舎を出て校門へと向かってた。途中通りがかる中庭には緑と多くのベンチが設置され、昼時には多くの生徒が利用するが今は誰もいない、と思いきやベンチに腰掛ける一人の女子生徒が目に入った。
 見たことの顔だなと思いながら自然と足を止めると、その女子生徒と目が合った。無視は出来ないと思い足を向けるとすぐに制服についた校章の色で同学年だということが分かった。

「もしかして、編入生の方ですか」
「は……はい!」

 緊張した面持ちで返事をしてくれた。名前はたしか……

「渡辺さんだったよね。どう、ここには慣れた?」
「はい、だいぶ。最初はちょっと、色々戸惑っちゃったけど」

 笑顔で問いかければ、清々しい笑顔とハキハキとした返事が返ってくる。初対面の印象はとても良く、明るく気さくな雰囲気が伝わってくる女子だった。
 人とうまくやっていけそうだ。まなみは気にしていたけど、心配するまでもなさそうだ。

「あの、新谷君……だよね?」

 名乗って、よろしくと一言告げて、早々に立ち去ろうと思った時だった。渡辺さんが僕の名を呼んだ。
 自己紹介をする間もなく自分のことを知っている。この時点で、いつも心に一枚バリアが出来るような感覚に陥る。

「噂で……聞いてて」
「そう、よろしくね」
「あの!」

 立ち去ろうとするとすぐに呼び止められて振り返った。

「もしよかったらあの……また、お話できないかな? 話かけてもらえて、すごく嬉しくて……だから」
「話?」
「えぇっと……その、実は私。まだあまりこの学院に馴染めてなくて……ははは……っ」
「うん、もちろん。いつでも。見かけたら話しかけて。ボクもそうする」
「ありがとう!」

 その日から、時々校内を歩いていると渡辺さんに声をかけられることがあった。自分から彼女を見かけることはなかったから声をかけることはなかったけど見かければ声をかけることくらいはしただろう。でもなかなかそれはかなわなかった。
 なぜなら会話をしたのは初対面から一週間くらいの間だけで、それから、気づけば一ヶ月くらい渡辺さんの顔を見ていなかった。彼女から話しかけてくることもぱたりとなくなったのだ。そのまま、渡辺さんの存在を忘れかけていたある日の放課後、まなみが僕を訪ねて僕のクラスに来た。
 一緒に帰宅をしながら、校門を出たところでまなみが慎重に周りに気を配りながら口を開いた。

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