相容れない二人の恋の行方は
 新谷を追ってやってきたのはマンションから最寄りの駅前だった。電話の相手とここで待ち合わせをしているなら、まだしばらくは到着しないだろう。電車を使って30分はかかるのだから。
 本当なら私は自分のスマートフォンをさっさと取り返してマンションに戻りたいところだけど、相手を待つ間、どこか緊張しているような面持ちの新谷は話掛け辛い雰囲気で声をかけることが出来なかった。それでもこんなところでいつまでも無駄な時間を過ごしているわけにもいけないと思った私は勇気を出して声を掛けてみることにした。

「あ、あのぅ……」

 勇気を出して発した一言はすぐにかき消された。私の声をかき消したのは、悪夢のような日々を思い出すバイクのエンジン音だった……。

「おー! 千智! 久しぶり!」

 バイクを停めこちらに近づいてくるのは間違いなく、昼間に会った隣の部屋に越してきた男性だった。新谷が連絡を入れてからすぐに出てきたのだろう。十月中旬、夜は上着がないと肌寒いのにTシャツ、ハーフパンツという完全なる部屋着姿で現れた。どこか野性的な雰囲気のあるこの男性は寒がる様子もなく平気そうだ。

「弘毅(ひろき)! 久しぶり……!」

 めったに見られない気分が高揚した様子の新谷の姿に思わず見入ってしまった。あっけらかんとさっぱりとした笑顔を見せる男性に向かって、裏表のないごく自然な笑みを浮かべている。
 お互いに元気だった? とありがちな再会の挨拶を交わし、少しすると新谷に弘毅と呼ばれた男性が私に目を向けた。

「俺さぁ、偶然この子の隣に越してきてさ、どっかで見たことあるなぁって思ったんだけど全然出て来なくて……だってさ、全然違うくね? 昔はもっとこう真面目な学級委員長みたいな感じで……」

 新谷とはまた違った威圧感、迫力のある男性に私は完全に委縮していた。そんな私の一歩前に新谷が立った。

「真由子は今ワケあってボクのとこにいるから、隣の部屋には帰らないよ」
「うげっ! 真由子、あんたまだ千智にこき使われてんの? うわー、可哀そう~。大変だろ、千智の相手は」
「ま、まぁ……」

 えぇ、そうです。おっしゃる通り昔と今、状況はたいして変わっていませんよ……。弘毅さんの言葉に気分がずーんと暗くなる。

「恋人同士ではないんだよな?」

 弘毅さんのその言葉に私は全力で頷いた。するとにやりと口元に笑みを浮かべた弘毅さんが「ふーん」と言いながら頷くと新谷に目を向けた。

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