奇跡の花『miraculous flower』―正直僕は強くない。けど、僕達は強い。
ゴールデンウィーク事件

前編

2012年5月2日午後8時に背は日本人の平均である172㎝よりちょっと大きくて、緊張も相まっているのか小さい頃から親に指導をされていたのであろうと推察できるほどしっかりと背筋が伸びていて、遺伝か小さい頃からスポーツをやっていたのが原因かわからないが肩もなで肩ではなく幅もかなりある背広や制服の似合いそうな体系をした少年が大きなドアの前に立っていた。髪は黒色で髪型は校則通り、側面は刈り上げて、前髪も眉にかかる程度で短くまとめられている。この少年は体系だけならいっぱしの高校生に見えるのだが、生まれつき顔が童顔であったがため、初対面の人によく年下に間違えられていた。しかし、今日は頭には包帯がバンダナでもつけているかのようにぐるぐる巻きにしてあり、頬にガーゼや一見制服に隠れているが腕やお腹や足にも相当な生傷があるうえに全身筋肉痛なので実際の所は立って歩くのが精いっぱいの状態でり、正直なところ病院から学校までは車の送迎付きで、学校内もエレベーターを使っていいとできる限り配慮してくれてはいるものの怪我と昨日の出血でフラフラだったので、今日はベッドの上で安静にしていたかった。いつも学校でも明るくよく笑うこの少年が今日は顔の表情が強張っていて、緊張していることや嫌なことがあったことなどが素人目からもわかるぐらい青ざめていた。それもそのはず、普段この部屋は本高校に関する重要な会議や生徒に重大な決定を宣告するときに使われる完全防音でドアを含める部屋全体もロケットランチャーでもびくともしないつくりになっているごく真面目で普通にこの学校で3年間生活する分には全く縁もゆかりもない場所である。少年は指定された時刻の10分前から部屋の前に待機しており、いつでも部屋に入れる準備をしていた。時間になると中からよく知っている男性が一人出てきた。その人の名前は豪風(たけかぜ) 仁(じん)といい新覇のクラスの担任兼教官にあたる方だ。現在24歳でもうすぐ25歳になる方で、教官となられて約1年半が経とうとしていらっしゃった。身長も185㎝ほどあり、イケメンで頭脳明晰で温厚ないわゆるスパーエリートだったので、男女問わず生徒からの人気が高いひとだった。その方が自分のクラスの担当の教官とわかるや否やすぐに腰をななめ45度にして挨拶をした。
「こんばんは」
「おう、よく来たな。いつ、起きたんだ?」
「午後4時頃に目が覚めました。14時間以上寝ていたのは久しぶりで自分自身でも驚いています」
「そうか、でも、それほどの激闘だったのだろう。俺も跡地を午前中に見に行ったがとんでもないことになっていたんだなぁ。本当によく帰ってきたな」
「いえ、そんな僕の力じゃないですよ……」
「そうかもしれんがとにかく無事で何よりだし、どんな形であれお前たちは弟の敵をとってくれた礼を言う」
普段凛々しく立派で尊敬の念のやまない教官が頭を軽く下げられた。
「いえ、そんな、教官に礼を言われる立場にないですよ。僕は。」
「そうか。たとえお前がそうでも俺は弟を失ったあの日以来俺の目の届くところで命を落とす事件はもうこりごりだと思っていたから、本当によかった。ところで怪我の具合はどうなんだ?」
「はい、正直なところかなりきつくて、ここまで歩いてくるのにも一苦労でした」
「無茶をさせているのは解っているが、関わってしまった事件が重大なものだっただけにできるだけ早く情報の収集と整理をしたいとみんな焦っているんだ。理解してくれとまでは言わんが、誤解だけはしないでほしい」
「心配せずとも、ちゃんと理解できております」
「そうか、それは良かった。ところで、もう夜も遅いし、事情聴取がいつ終わるかわからんから、飯はちゃんと食ってきたんだろうな?」
「すみません。お腹事態は空いていたのですが、どうも昨日のこととこれからのことを考えるとどうしても胃が受け付けなくて。」
「そうかそれじゃあこの聴取が終わり次第飯でも食いに行くか?お前の好きな店連れて行ってやるよ。そこで、好きなもの頼め。もちろんおごりだからよ」
「わかりました。じゃあ、教官の行きつけのお店でお願いします」
「おう、まかしとけ」と豪風教官は言い終わると時計の方を一瞬ちらっと見て、
「そろそろ時間だ。なんか質問はあるか?一応お前の体調面を考慮して、取り調べ中は椅子に座ったままでいいからそこは心配するな。あと、ちゃんと入る前にトイレに行っとけよ。結構かかるかもしれないから」といった。
「トイレはさっき済ませたので、問題ありません。質問も特にはありません。」
「そうか、じゃあ、お前にとってつらいかもしれないがバシッと決めてこい。終わったら、うまい飯でディナーだ」と言い、部屋の中に先に入って行こうとした。そこで新覇は
「教官。お気遣いありがとうございました」と背を向けている教官に深々とお辞儀をした。
「おう、先行って待ってるぜ。頑張れよ」といい部屋に入って行った。
「はい、では行ってきます」と新覇は一人呟き、そして深く3回深呼吸をした。深呼吸をし終わると自分がさっきより変わっていることに気が付いた。
(肩の力は適度に抜けているし、顔もそこまで強張っていない。教官は僕を見てすぐに僕が緊張しすぎているのがわかっていたから、適度にリラックスできるようにしてくれたんだ。本当にありがとうございます)
「つーか、このドア、自動なくせにとってついとったんやなぁ。そないなことに今まで気づかんかったぐらい周り見えてへんかったんやなぁ」と言い、一呼吸入れて身だしなみを確認した後、ドアの前に進みコンコンと2回ノックし、
「こんばんは。桜陽学院高等学校1年Y組出席番号8番の新覇道統(しんはみちのり)と申します。失礼させていただいてもよろしいでしょうか?」と言った。すると中から、威厳のある声で、
「うむ、入ってこい」と言われた。
「失礼します」と新覇は一度ドアに一礼すると、その部屋の中に入って行った。

中は暗く、中央に椅子が一つ置いてあり、新覇は失礼しますと言って、座りたまえと言われた後に、着席した。新覇側からは目の前の一人しかよく見えないが、少なくとも周りにはほかに5人以上いた。
「新覇君そんなに心配せずとも、ここにいるのは君を殺そうとしている者達じゃないから、安心しなさい。ただ、後後の遺恨にならないように顔と姿は隠してもらっているけども」
「わかりました。そういうことなら、問題ありません」
「では、さっそく事情徴収を始めたいと思うが、始める前にいくつか注意事項がある。一つは質問には正直に答えること。わからなければわからないと答えてもいい。2つ目はここで話した聞かれたことは他言無用ということだ。まぁ、君にも高校生という立場があるから、友達とかにしつこく言われるかもしれないが、余計な混乱を招くことの防止と君自身を守るために、順守してほしい。3つ目は結構な時間がかかるから、どうしても席を立ちたい用事の時は一回手をあげてほうこくしてから立ちなさい。それ以外は長いかもしれないが基本休憩はなしだ」
「はい、わかりました」
「よろしい、ではこの装置を頭に着けたまえ」
「これはなんですか?」
「君の頭に残っている事件に関する記憶の映像とその正誤、つまり嘘をついていないか一緒に見ていくための装置だ」
「今はそんなこともできるんですね」
「残念ながらそれも今のDNA鑑定ほど正確ではなく、あくまで参考程度のものだ。ただ、嘘をついているかはこの私が機械などに頼らなくてもたいてい見抜けるから。なるべく正直に話した方がいいよ」
「大丈夫です。嘘をつく気は全くございません」
「よろしい。こんな状況で難しいかもしれないが、君は小説でも書くようにイメージし続けながら、質問に答えていけばいい。では、始めようか」ここから長くて精神的につらい夜が始まる。

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