奇跡の花『miraculous flower』―正直僕は強くない。けど、僕達は強い。
「ところで、会長にお聞きしたいことがあるのですが、質問してもよろしいでしょうか?」
「ええ、かまわないわよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて、幾つか質問させていただきます」
「どうぞ」
「昨日僕はいったいどうなったのでしょうか?」
「昨日あなたこのホテルの近くの駅で倒れかけていたのよ」
「そ、そうなんですか」
「ええ、私がたまたま私用で出掛けに行ってその駅に降りたら、一人の背広を着た男性がふらふらになって、座りこんでいたあなたのことを介抱していて、よく見たら手首に制限装置つけていて、若い顔していたうえにどこかで見たことあるような顔だったから、すぐにうちの生徒だってわかったわよ」
「も、申し訳ありません。その後どうなったかわかりますか?」
「その男性に今まで介抱していただいたお礼と私が彼の関係者ってことを伝えて安心して帰宅してもらって、私は自分の携帯を使ってあなたの財布の中の学生証と制限装置の番号からつかんだ情報から、個人的につてのあったあなたの担当教官に連絡して、あなたがここのビジネスホテル泊まるために外泊届を出しているっていう話を聞いたから、タクシー乗り場まで傘をさしながらあなたを負ぶって、このホテルにまで連れてきたのですよ」
「ものすごくご迷惑をかけたんですね。本当に申し訳ございません」と新覇は頭を下げた。
「いいの、いいの、気にしないで。倒れている知り合いの人を見つけたら普通は助けるでしょ。でも、まさか自分が後輩とはいえ男の人をおんぶするとは思ってもみなかったけども」
「面目ないです。それで、一晩中看病していただいていたのですか?」
「最初は仁さんからあなたとルームメイトの園和君が同じ部屋に泊まるって聞いていたから、彼が来るまで、チェックインと部屋に連れて行って、あとは待つだけにしようって思っていたんだけど、あなたの携帯にちゃんと無事ひとりで観光できているかどうかの電話が園和君からあった時に、今日はどうしても外せない用事があって来られないっていうのを聞いたから、結局昨日は心配だったからこの部屋で看病も兼ねて泊まったってわけ」
「そうだったんですか。じゃあ、昨日は寝てないんですか?」
「安心して、途中からだいぶ容態が落ち着いたから、夜遅かったけど、ちゃんと6時間は寝たから」
「それを聞いて少し安心しました」
「会長は僕ために外泊届も出していないのにここに泊まっても大丈夫だったんですか?それと、会長は予定されていた用事とかに支障をきたしてはいないんですか?ほら、もうすぐ2、3年選抜で世界大会があったりしますけど」
「それについては問題ないわよ。私も昨日このホテルで泊まる予定でそのために外泊届出していたし、今日はオフで久々に羽を伸ばすつもりだったから。」
「そうなんですか!すごい偶然ですね」
「あら、そんなことないわよ。あなたこのホテルに予約するとき、学生証の番号を打ち込んだら、特別安くなったでしょ」
「はい、普通よりかなり割り引いてくれました」
「それは、このホテルが私たちの人工島の教育機関の提携会社だからよ。値段も安くて駅にも近いってなれば必然的に限られてくるってわけだから、決してすごい偶然ってわけじゃないのよ」
「まぁ、そういわれるとそうかも知れないですが、会長が倒れた時に通りかかってくれなければどうなっていたかわかりませんでしたから、僕はやっぱりラッキーだったと思いますよ」
「確かにそういう風にとらえなくもないわね」
「でも、そうなると別にやましいことは何もなかったとはいえ、一緒にホテルの部屋から出て行って、一緒にエレベーターに乗って、一緒にホテルを出たのって、学校関係者が多数いるかもしれないならかなりまずくなかったですか?」
「まぁ、皆が起きだす時間なら、私も別々に行動しようとは思ったけど、あの時間帯にチェックアウトして出ていく人はそうそういないから、安心しなさい。それに、一応周りを注意してみていたけど、それらしい人はいなかったし」
「会長はさすがですね。ただ、昨日のことで支障をきたしていなくても、今日の羽を休めるはずの予定に支障をきたしたのでは?」
「それについても大丈夫。もともと特に時間通りに行動しないといけないような予定はなかったから心配しないで」などと話している間に新覇の料理が先に運ばれてきた。少しの間新覇が手を付けずにいると、王生が「気にせず先に食べなさい」と言ったので。「お先に失礼します」といってから、食べ始めた。食べ始めてほどなく王生の注文した料理も出てきた。
食事中には他愛のない談笑を繰り広げて、お互いにパスタを一口ずつ交換したりした。食事が終わると王生が「そろそろ、午後から用事があるので、そろそろおいとましますね」といったので、新覇もそれに付き添う形で席を立ち、会計を済ませようとした。
「お会計は別々ですか?」
「会長、ここは僕に払わせてください」
「どうしたの。急に」
「いえ、昨日の介抱してくれた御恩に少しでも報いたいと思ったので」
「でもそれって、あなたが稼いだのではなく、親のお金でしょ?」
「確かに使おうとしているお金は親が稼ぎ出してくれたものですが、このような場面でお金を使うことをとがめる親ではありません。むしろ、うけた恩を返さない方がとがめられます。それに、いずれ大学卒業後に社会に出て働いて返しますから、なんの問題もありませんよ」
「ふ~ん。見栄を張っているってわけじゃなくて、ちゃんと考え合ってのものなんだ。まぁ、奢らせてやろう」
「では、お会計は一緒ですね。合計で、2000円になります」とレジの店員が言い終わるとすかさず会長は1000円札を2枚出して、勘定をすませた。
「いつかね」
「か、会長!?」
「さっきの話はあくまで君が年上か同級生もしくは部活の異なる学年1個下の場合だけだ」
「でも、会長は昨日倒れた僕を運ぶためにタクシーまで使ったじゃないですか」
「そんなささいなことは気にしないでほしいわ。それに私は自分の部活の後輩に奢ることはあっても、奢られることは基本的に嫌だから」
「助けられた上に食事もごちそうになるなんて、これじゃ僕の立つ瀬がないですよ」
「そう悲観するな。そうだな、せめて私の身長を超えてからそういうことをするんだな」と新覇の肩を叩きながらいった。新覇と王生は店員に御馳走様と言い、新覇は王生がでていく前より先にドアのそばに行って扉を開けて、王生が通ると「御馳走様」と王生本人に向かって言いその扉を閉めた。
「あら、気が利くのね。ありがとう」
「いえ、せめてこれぐらいはさせていただかないと」
「じゃあ、私そろそろ行くわね」
「はい、昨日と言い今日といい大変お世話になりました。気を付けて行ってらっしゃいませ」
「はい、行ってきます。あ、そうそう、あなた明後日の5月1日空いていたりするの?」
「はい、え~と、ちょっと待ってください。今確認いたします」と言うとスマートフォンで新覇は自身のスケジュールを確認した。
「はい、丸1日あいています」
「なら、昨日と今日の埋め合わせと言うことで、その日1日私に付き合うっていうのはどうですか?」
「願ってもないことです。ぜひそうさせていただきます」
「そう、ならそういうことで。後、会長っていう呼び名あまり好きじゃないから、別の呼び名にしてもらえないかしら」
「はい、えっと、それでは王生先輩とお呼びしようとおもいますが、いかがでしょうか?」
「……王生先輩ね。それでもちろんいいわよ。後、昨日と今日のことと明後日のことは他言無用って約束してもらえるかしら?」
「何か都合の悪いことでもあるのでしょうか?」
「あら、余計な詮索をする男は女性にモテないし、嫌われるわよ」
「はい、では、他言無用と約束いたします」
「素直でよろしい。後、体調がまだ完全によくなったとは言えないから、遅くまで観光せず、早めに寮に帰って、病院に行って鷹里先生に診察してもらいなさいよ」
「はい、そうさせていただきます」
「じゃあ、明後日のことはメールで送信するから、メールアドレス交換しましょう」
「はい、喜んで」
そうすると新覇はスマートフォンの赤外線機能を使って交換した。
「では、また明後日ね。ごきげんよう」
と会長は手を軽く振って、すぐさまどこかに行ってしまわれた。僕は、しばらく一人で東京観光しながら、早めに寮に帰宅して、帰るまえに連絡しておいた自身の担当医である鷹里さんのいる人工島内の3つあるうちの一つの研究用兼学生専門の病院に行った。
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