奇跡の花『miraculous flower』―正直僕は強くない。けど、僕達は強い。
国を代表する大病院の中の一室には鷹里さんだけの特別の研究室を用意してあり、この時点でかなり聡明な方だと判断することは容易にできる。ごく普通の場合に超一流国立大学の医学部で自分の専用の研究室を持てるのには、まず教授になる必要があり、どんなに天才で運が良くても最短で30代半ばから後半にならないとなれないものである。しかも、教授の椅子は限られており、誰かが引退もしくは亡くならない限りその椅子が空くことはまずないのである。しかし、鷹里さんはほぼ男性ばかりで占めるこの医学界の教授の中で、女性でありながらしかも、20代前半で教授に大抜擢された。この大抜擢には、彼女の才能はもちろんのことだが、彼女が大学時代に1年半だけ在籍していたこの大学でもなかなか入れない人気ゼミを持っている日本の魁現士医療の第一人者の神代教授に気に入られて、彼の絶大なコネと学生時代から母の手伝いをしながら世界を驚かすような発明をしていて、魁現士の分野でエジソンやアインシュタインの再来とうたわれていた彼女の才能を他国へ逃すまいとした日本政府の思惑がかかわっていた。鷹里は若くして、これだけの地位を得たのだから、陰では女を利用して成り上がっただの相当な数の人間に妬まれ、そして疎まれていた。当の本人はそれには気が付いていたがさして気にしていなかったようだったが。現在鷹里さんは大学での講義は免除されていて、その代わり、自身の研究と寮で生活する後輩達相手に模擬戦で負った傷の治療とメンタルケアをしており、ゆくゆくは臨床心理士の資格も取ろうとしていた。新覇は明りの付いているドアの前に行って、ノックと「失礼します」と言って、部屋に入って行った。
「やぁ、待ってたよん」
「すみません鷹里先生。休みの日にわざわざ来ていただいて」
「全然気にすることないよん。だって、どうせ今日ここで寝泊まりする予定だったし、君たち学生とは違って、私は明日からまたいつも通り仕事が問題ないよん」
「そういえばそうですね」
「ところで今日はどうしたのかなぁ?学校での人間関係での悩み?それとも怪我でもしたのかな?」
「そこまでたいしたことないとは思うのですが、実は昨日駅で熱を出して倒れていたらしいので、体に異常がないかちょっとみてほしいんです」
「OKわかったよん。じゃあ、ちょっと検査しちゃおっか。じゃあ、まず体温計で温度測ってね」
「はい、わかりました」
温度計には通常より少し高いぐらいの数値が示されていて、悪くて微熱程度のものだった。そんなこんなで、視診、聴診、触診、打診と一通り検査をしてもらったが、特に異常は見つからなかった。
「あれぇ~、おっかしいな~。一般人じゃなくて、私達みたいな魁現士になるための聖核種を持っている人間はよほどのことがない限り、急に倒れたりしないはずなんだけどなぁ?とりあえず、体には異常がないから、もしかしたら脳に原因があるかもしれないね。特に君の能力は普通の魁現士達とは違って、脳への負担は大きいからさぁ。最近無茶したことあったかな?」
「確かに春休みの時少し無理をしましたが、帰国後に検査して、異常なしと言う判断はもらいました」
「ちょうど私が出張でいないときだったね。なるほど、事情は分かったよん。とりあえず、ctスキャン使って脳を調べたいところだけど、この研究室にはないから、悪いんだけど、調べられないんだよね。血液検査をするにしても、結果が出るまで時間がかかるしね。あと、脳を調べるにもたぶん他の病院は今日はもう救急医療の所以外は診察時間が終わっちゃっているからさぁ。まぁ、ctスキャンを使わないことには完全に安全とはいえないけど、たぶん今のまま生活していっても何も問題ないとおもうよ」
「そうですか。鷹里先生がそこまでおっしゃるなら心配いりませんね。診察していただきありがとうございました」と言いながら、新覇は深々と頭を下げる。
「どいたま。でも、なにが原因でそうなったのか詳しく調べたいから、また気になることがあったら、いつでも連絡してよん。だいたいこの島にいるからさぁ」
「はい、ぜひそうさせていただきます」
「とりあえず今日も早く寝た方がいいに越したことないよん。じゃあ、お休み~」
「お休みなさい。失礼します」
「クレセントハッピー、よい夜を」と言いながら新覇は両手をパーにして前に突き出された。
「クレセントハッピー、鷹里先生も」と若干テンションをあげて新覇も同じようにやり返して両手でタッチをしてあげて、寮に帰った。
寮に帰る途中にふと鷹里さんよく「クレセントハッピー」って、言うけど、一体どういう意味なんだろうと考えながら、やっぱり天才の考え方はよくわからないという結論に至った時にちょうど寮の自室に帰宅した。
自室に戻って、すぐにシャワーを浴びに入って、洗濯をした。ゴールデンウィーク中なのと風呂に入るには時間が早かったために、知り合いに合うことはなかった。洗濯物が洗い終わるのを待っている間、音楽を聴きながら、ゴールデンウィーク中の課題をした。1時間後、課題がいいところで区切りがつくと洗濯物を回収して、ベランダに干しにいった。その後、部屋に帰ってきたが、やっぱりルームメイトの剣翔は帰ってきておらず、久しぶりに部屋に本当に1人でいる感じがした。ここに入学するための準備期間を含めた1年ちょっとの間常に新覇の周りには人がいる状態で、この部屋にいるときもたびたび剣翔が用事でいなくなっても、剣翔目当てに遊びにきた奴とかがくるので、結局誰かと一緒であることが多く、また、連休はたいてい部活があったし、冬休みや春休みは実家が剣翔よりも遠いから、先にここの寮をでていたので、こんな感じで部屋に1人で長くいるのは割と新鮮な感じだった。
「なんか一人でいると気は楽だけど、なんかいつもみたいに人がいるにぎやかな感じがしなくて、なんかさみしい気もするな」とつぶやいた。新覇は剣翔が帰ってくるのを勉強をしながらまっていたが、門限を過ぎても帰ってこなかったので、今日はもう帰ってっこないと判断して、体調のことも考慮して、早めにベッドに入った。
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