奇跡の花『miraculous flower』―正直僕は強くない。けど、僕達は強い。
「あ~やっぱり2人ともここにいた」
そう発言したのは少し紫色っぽいピンク色の髪をした女の子の白百合(しらゆり) 咲(さき)だった。彼女はつい先日の桜陽祭のミスコンで、新入生にして全体順位が3位で、学年では1位だったので、今最も旬な人の一人である。白百合と比べて背は低く、魁現士としては小さい160㎝程度である。梅春とは幼稚園時代からの親友であり、今はルームメイトであり、しかもいつも一緒にいることから、彼女たちが知っているかわからないが周りからは白梅コンビと呼ばれ、学年を代表する3姫のうちの2人であった。
「咲さん突然どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたもないわよ。実家から部屋に帰ったら、寮にいるはずの彩華ちゃんいないし、連絡しても音沙汰なしだったから、心配したのよ。まぁ、新覇君にも連絡して同じく何の音沙汰もなかったから、どうせまた2人でいつもの特訓やっているんだろうと思ってきたのよ」
「そのためにわざわざ来たの?」
「だって、2人の試合見るの結構好きなんだもん。それで、ついに一本とれたの?」
「相変わらずてんでかなわないや。初めて試合した時からもう半年過ぎたのにいまだに一本も取れない自分が情けないや」
「ふ~よかったぁ」
「何で安心したの?」
「だって、2人の戦いをほとんど見てきている私としてはやっぱり初めて道統君が一本とる姿はやっぱり生でみたいじゃん」
「おお、うれしいこといってくれるなぁ」
「咲ちゃん楽しみにしているところ悪いのだけど、残念ながら新覇が私から一本奪うのはまだまだ遠い先のことになりそうよ」
「まぁまぁ、彩華ちゃんそんなこと言わずとも、私は彩華ちゃんの実力をこの学年で一番わかっているし、私だってバカじゃないんだからそれぐらいわかっているって。まぁ、気長に待ちますわ。ただし、できれば今年中で最低来年までには一本取ってくれないと愛想尽かしちゃうから頑張ってね」
「肝に銘じておきます。とほほ、2人ともやっぱり思ったことずばずば言ってきて厳しいなぁ」
「『厳しくし』なければ(ないと)、『君は伸びないから』な(ね)」
言葉の端々が異なるとはいえ、ほぼ内容は見事なまでに一致していた。
「くやしいですが、お二方のおっしゃる通りです。現実は厳しいな。ところで、咲さん制服以外で校内に入って大丈夫だったんですか?」
「学校の施設を使うわけじゃないから、別にかまわないって、守衛さんが言ってくれた。で、道統君的にはこの服どう思う?」
「え、僕に聞くんですか?僕そんなにファッションを人に指摘できるイケてる人間じゃないですよ」
「気にしないで、それは知ってるから」
「知っていて聞くとは、咲さんあなたは鬼か?」
「でも、私服何度か見たことあるけど、そんなに悪くないというか、むしろ良かったと思ったんだけど」
「まぁ、あれはこっちに来る前に大阪のアウトレットで買ったやつですから、東京のと雰囲気が異なっていてよく見えたんじゃないですか?」
「確かに、それもあるかもしれないけど、それを考慮しても、道統君の服はイケてる方だったよ」
「それはどうもありがとうございます」
実は今まで持っていた服が合わなくなったから、こっち出ていく前にファッションセンス抜群の母親の審査の元で服を選んでいたとは口が裂けても言えない。
「で、そんなことどうでもいいから。とにかくこの服は道統君的にはどうなの?」
「え~と、あくまで一意見なんだけど、可愛い服だと思いますよ。全体的にもバランスとれていると思いますし、普段ミニスカートなんて見れないから、その分グッとくるね。いわゆるギャップ萌えってやつですか?」
「へへっどうもありがとう。オシャレしてきたかいがありました」
「新覇そろそろ休憩は終わりだ。練習を再開するぞ」
「あいよ」
また再度試合が始まり、部屋に怒号と竹刀の音と時に静寂が響きあった。そして、何本か梅春が決めた後に突然話しかけられた。
「ところで、新覇今ので連続で何本目をとられたと思う?」
「99…」
「声が小さくて聞こえんぞ」
「997本目です」
「そうだ。そのとおりだ。よく数えていたな」
「よく言うよ。自分だって数えていたんでしょ?」
「だいたいの数はな」
「そりゃあ、こっちは最初の約束通り連続で100本とるごとに何か奢らされていたんだから、いやでも数をかぞえますよ」
「1000本目の約束は覚えているか?」
そう、それは約半年前で初めて今後の稽古相手をかってやってもいいと言われたたときのことだった。
「ただ、なんの見返りもなしでやるのは正直モチベーションが上がらない。だから、連続で100本とるごとになんか奢ってくれ」
「まぁ、それぐらいなら…」
(正直連続で100本とるなんて、そうそうできるもんじゃないし、奢ることとなっても、2~3回程度だろう)
「よし、じゃあ、1000本連続でとったら、なにしてくれる?」
「1000本!?いくらなんでもそれはできないでしょ」
「ほう、大した自信だな。なら、どんなことを設定しても何ら問題はないな」
「いいですよ。どうせ、1000本連続何て出来っこないんですから」
「新覇了承したな。くっっくっ、このことを君は半年ぐらいたった日にきっと後悔するだろう」
「梅春さんこそ大した自信ですね。じゃあ、僕が1000以内であなたから一本取れたら何をしてくれるんですか?」
「新覇君はいったい何をいっているんだ?」
「言葉の通りの意味ですよ」
「そんなありえないことをいちいち議論する意味があるのか?君が言っているのは、人が何の補助装置もなしに、不老不死を手に入れられると言っているのと同じなんだぞ」
「そこまでコケにされるとは…。良いだろう。なら、僕が一本取ったあかつきには、何でも一回僕の言うことを叶えてもらおうか」
「良いだろう。その代わり、こちらは3回なんでも言うことを叶えてもらうぞ」
「ああ、かまわない。もう現時点を持って契約成立だからな」
「無論だ。あとで、吠え面かくなよ」
「その言葉をそっくりそのまま返してやりますよ」
そして、現在に至る。
「はい、もちろん覚えています」
(マジであのころの根拠のない自信に燃えていた自分を殴りたい。なんて約束をしてしまったんだ。あの眼はマジであと3本決めて、1000本連続でとってなんでも3回命令を叶えさせる気や。なんて恐ろしい女と取引してしまったんだ。この人絶対に冗談やってで済ませてくれない人やで)
「よし、正直で素直ないい子だ」
「でも、やっぱり昨日倒れたせいで忘れちゃったかも?」
「安心しろ。そしたら、思い出すまで何どでも打ち込んでやる」
「やっぱり、なんか頭の片隅に残っていました」
「そうか、これで後3回打ち込まれるだけで済むな。ただ、その後で、飛び切りのご奉仕が待っているけどな」
「そ、そう簡単にいくかな?」
「声も竹刀も少し震えているな。かわいそうに今楽にしてやるよ」
「そんな風に油断しているとえらい目に合うぜ」
「ほう、楽しみだな。最後にどうあがくのか。見ものだな」
「二人とも頑張れ~」
そういい終わると、少しあたりが静寂に包まれて、もう一度2人の竹刀の切っ先が触れ合ったとき、最後の三本勝負が始まった。
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