ミュゲ




お兄さまは気づいていらっしゃった……。


私がそのお花をくれた男の子に恋をしていたことに。




でも私はピアニー国の皇太子さまと婚約なさる身。


ピアニー国は大国ですもの。


我がビンドウィード国の安泰のためにも私が行くしかないのはわかっているわ。





「ミュゲさま、このご婚約は解消されてもよろしいので御座います! 陛下も強制なさってはおりませぬ!」




「カッシュ、ありがとう。大丈夫よ。皇太子殿下は素敵なお方だと噂になっているのでしょう? きっといいお方だわ。」





呆れて溜め息を吐くカッシュにごめんね、と心の中で謝る。


私のことを心配して案じてくれていることも知っているけれど、私は意思を変えることはしない。






そして、とうとう今日にきてしまった私の披露宴という表書きの朝。



"ミジュ"の噂はあっという間に広まっていき、一般の国民から、かの国の皇族までもが宮殿に押し寄せていると、お兄さまから聞いた。


でもさすがに、




「……集まりすぎよね?」






ちらっと、窓から外を見るとどこも人、人、人。



私のお披露目は午前から宮殿周りを一周して、午後三時から宮殿のバルコニーでの演説、そしてその後に、貴族内での交流会、婚約発表となる。




「ミュゲさま、それはミュゲさま自身のせいですよ。」



「私の?」




「そうです。いくらミジュの能力が目的でもこんなに人は集まりません。民は皆、ミュゲさまの人柄に集まっているのですよ。」




ミュゲは知らなかった。



ミジュの能力を恐れられ、酷い扱い受けてきたのにも関わらず、誰とでも朗らかに接するビンドウィードの皇女。

姿のみならず、心も美しいと評判になっていることを。



それに、頭脳も明晰であり、ミュゲのアドバイスは説得力もあった。
物事を的確に示唆するため、最初は困惑していた大臣でさえも、今では意見を求めるようになった。



この3日という短い間にミュゲは人々の心を惹きつけたのである。


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