クール上司と偽装レンアイ!?
その日の夜。

久しぶりに葵の夢を見た。

夢の中の葵はいつも優しくて、頼り有る腕で私を抱き締めてくれる……はずなのに、いつもと様子が違っていた。

葵は冷たい目で私を見下ろし、背中を向け去って行ってしまう。

私がどんなに泣いても縋っても振り向いてさえくれない。

一欠片の情も無い。

私は完全に捨てられたんだって思った。



目覚めの気分は最悪だった。

夢の中で大声で叫んだからか、動悸がして頭がクラクラした。

気分を落ち着かせる為深呼吸してからゆっくりと立ち上がり、薄いブルーのカーテンを開いた。

爽やかな朝の光が部屋を明るくする。

陽の光を受ると、固まっていた身体がほぐれて来る。

家の中で愛用しているフリースの上着を羽織ると、階段を下りて洗面所に向った。

歯磨きをしながら考える。

あの夢は何だったんだろう。


昨夜の葵はとても優しかった。
朝井さんの事でナーバスになってる私の気持を面倒がる事なく受け止めてくれて、仕事で疲れているはずなのに家まで送ってくれた。

私が玄関の中に入るまでずっと見ていてくれた。

それなのにあんな不吉な夢を見ちゃうなんて……夢って深層心理の表れって言うけど、だとしたら私は葵との別れを意識してるって事?

そう言えば、葵関係の夢はまるで予知夢のように少し先の展開が出て来た。

まさか今回も、予知?

一瞬浮かんだ考えを慌てて打ち消した。

何馬鹿な事、真剣に考えてるんだろう。

昨日葵は、裏切らないってはっきり言ってくれたのに。

こんな風にいつまでも拘ってたら朝井さん問題関係無く嫌われてしまいそう。

そんなの嫌だ。前向きにならなくちゃ。

気持を浮上させようと勢いよく出した水で顔を洗う。

冷たい水がもやもやした頭の中の霧を流してくれたらいいのにと思った。


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