たったひとりの君にだけ
樹は行き場のない手をテーブルに置いていたiPhoneに移動させた。
恐らく、私と同じ最新機種だろう。
日本人に絶大なる人気を誇るiPhoneを、例外なくこの男も好きである。
そして、軽くタッチした後で、元の位置より更にテーブルの隅に寄せた。
「……芽久美」
決して返事をしない。
勿論、視線も合わせない。
斜めに外したまま。
そして、樹は重みを持たせた声でこう告げた。
「俺ももう、クリスマスなんてどうでもいいよ。完全消去でいい。日本以上にクリスマスを盛大に祝う外国でも、いつも通りの何気ない一日で構わない。そのかわり、俺とやり直して。で、フランスに来て」
顔を上げずともわかってしまう。
恐らくそれは、私にシンガポール転勤の話をしたときと同じだろう。
努力している姿を人に見せない。
僅かでも必死な自分を曝け出すのを拒む。
少なくとも、私にはそう思えた。
だからこそ、私が捨て台詞を吐いたときと肩を並べるくらい記憶に残っている。
正反対と言ってもいいほどの、滅多に見ることの出来なかったふたつの顔を。