たったひとりの君にだけ

芸術家がこぞって目指す。

私は全く芸術肌ではないけれど、確かにフランスという国に惹かれるのは紛れもない事実だ。

数ある選択肢の中から、迷わず第2外国語に選んだくらいで、行きたいと思いつつ行けなかった卒業旅行を未だ悔やんでも、いずれ行くから問題ないと言い聞かせて今日に至る。


だけど、旅行と移住は全く違う。


彼女らを捨てて、今すぐ芸術の都に行けるはずもない。



「……ったく、冗談も休み休みにしてよ」

「冗談じゃない」

「ありえない。ふざけないで」

「ふざけてねえよ。それにさ、俺についてフランスに来たら、それなりにいい生活が出来る。絶対に保障する。マンションの窓から、エッフェル塔が見えたりする、そんな生活が待ってる」


完全に論点がずれている。
そんな単純な問題じゃないことを、一体どう説明すればわかってくれるのか。

それとも、なに。
鼻先にぶら下げられた人参に、私が食いつくとでも思ってるの。

仮にそうだとしても、私はセレブになりたいなんて微塵も思っちゃいないのに。
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