たったひとりの君にだけ
けれど、期待の眼差しを向けられていることに気付きながらも。
私はお断りの言葉を口にする。
「ごめんね、この後予定あるんだ」
「あ、そうなんですかぁ~…」
わかりやすく肩を落とす彼女に、不謹慎にも笑みが零れる。
「ごめんね、今度また誘ってね」
「あっ、はい!わかりました!」
というやり取りをした直後に、私はあっ、と思い出す。
「っていうか、実加ちゃん、ごめんね。年明け早々のランチ。なかなか倍返し出来なくて」
流行語大賞を口にオフィスを早足で駆けたあの日から、私は彼女に何も返せずにいた。
職業柄、勤務時間内にランチで埋め合わせ、というのは難しい。
そりゃ、1、2回は彼女の営業先に同行はしたものの、予想以上の時間のロスで、ゆっくりお昼ごはんにありつけることはなかった。
だからこそ、新年一発目のあのチャンスを逃したのはかなりのダメージだったのだ。
(神村樹、心底恨む)