たったひとりの君にだけ

だけど、彼女は首を横に振る。


「謝らないで下さい。仕方ないですよ、だって急用だったんですもん」


素直な彼女に胸がチクリと痛む。

あんなどうでもいい話だったなら、行くべきじゃなかった。


「……そう、急用だったの、どうしようもなかったの」


だから嘘を吐くしかない。

あんな無駄な時間の過ごし方を、わざわざ人様に広めたいとは思わない。

心の中で『騙されたの』と呟いた。


「ごめんね」

「いいんですって!だって、メグ先輩、次の日お菓子くれたじゃないですか。抹茶味の新商品!」

「あんなんじゃお詫びにもならないけどね」

「でも、私の抹茶好き知っててくれたの嬉しかったし、凄く美味しかったので!」


あぁ、どこまで可愛いんだろう。

仕事も一生懸命だし、細かなことにも気がつくし、第一笑顔が可愛いし。
変態覚悟で撫で回したいくらいだ。

今、フリーだって言ってたっけ。

誰かさんみたいに悪い男に引っ掛からないように気を付けてほしいわ。


「ありがと。そう言ってもらえると助かる」

「いえ。こちらこそ新作ありがとうございます。じゃあ、今度また飲みましょうね!それじゃ、お先します」

「うん、お疲れ」


そう言って、彼女はオフィスを後にする。

微かに鼻腔を擽る香りさえも、彼女を魅力的に彩る。


確か、真智子ちゃんは営業先からの直帰だから、外で待ち合わせしているのだろう。

女二人、ネットで見つけた隠れ家的なお店にでも行くのだろうか。

声でも掛けられるんだろうと思うから、気を付けてって言っとけばよかったかな。

(ちなみに私達は何処に行くのだろう。瑠奈は今日が金曜の夜ということをお忘れではないだろうが)
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