たったひとりの君にだけ
そして、スプーンを手に、ゆっくりとオムライスを口に含む。
私はグラス片手にその様子を伺っていた。
すると、彼は右手の動きを止め、物凄いスピードで顔を上げた。
「芽久美さん!」
思わず体を後方に逸らす。
けれど。
真ん丸の目。
満面の笑み。
その先を聞かなくてもわかってしまう。
「美味しいです!」
米が一粒テーブルに飛んだ。
『あっ、すみません』と言って彼は高速で拾って口に含む。
「美味しいです!」
そして、何事もなかったかのように再度同じ台詞を口にした。
「んな、大袈裟な……」
「全然大袈裟じゃないです!ホント美味しいです!うわ~、美味しいなぁ、ホント美味しい」
それ以上のボキャブラリーは彼にはないのだろうか。
飽きるくらいに何度も繰り返して、特大オムライスを片付けていく。
その姿はまるで、お金がなくて食事に飢えていた若者のようで。
じゃあ、目の前に座る私は救世主か命の恩人か?
そんな勘違いをしてしまいそうだ。
「……そりゃよかった」
適当に、ボソッと。
食事に夢中の彼に聞こえていない確率が高いなか、ほぼ息音に紛れていた私の一言だったけれど。
少なからず、安堵していたのは否めなかった。
最初から、高階君の為に作ったわけじゃない。
たまたまメールを貰って、たまたま二人分を賄える量があって、気まぐれで誘っただけ。
それでも、こんなに喜んで食べてくれる。
私はようやく箸を右手にサラダを口にした。