たったひとりの君にだけ

だけど、大人気なく本気の剣幕で言い放つ私に、正反対に高階君はくすっと笑った。


「わかりました。ありがとうございます」


何故だろう。
ありえないほど穏やかな顔を見せる彼を視界に移した途端、負けたと思ったのはどうしてか。

これ以上憎まれ口を叩いてしまわぬように、私は視線を外して目の前のお粥に集中することにした。


「美味しいですか?」


ニコニコ顔の彼に、かろうじて適当に頷きながら。
ついさっき、ハッキリと感想を口にしたじゃないと心の中で反論する。

自分の食事風景をまじまじと見られるのは実に落ち着かない。


「それにしても綺麗な部屋だなぁ」


静かに嚥下を繰り返す私に、彼は独り言のように呟く。
残すところあと僅かというところで、私はその手を止める。


「……同じ造りでしょ」

「でも、俺の部屋散らかってるんで」


だったら掃除をすればいい。


「っていうか、そんなジロジロ見ないでよ」

「すみません。でも、やっぱり見ないともったいないかなって」


そんなに見られると擦り減るっての。


「……やめてよ。ごちそうさま」


私はすっかり軽くなった器を手渡した。


「お、完食!ありがとうございます!」


大満足な様子で受け取って、ナイトテーブルに置かれたトレーに乗せた。
そして、交換で薬を手渡される。
素直に従って、2錠、体の奥に流し込んだ。

更に、『これを飲めば一発だ!』と言って、葛根湯のドリンクを水戸黄門の紋章レベルで突き出された。

だけどこれって風邪の引き始めに効くやつでしょ。
どう見ても真っ最中でしょ、おかしいでしょ。

葛根湯と来ればある人物を思い出す。
きっと今頃イライラしてると思いますが。

後で飲むからと言ってiPhoneの横に置いておいた。(当然、飲みませんが)

高かったなんて戯言にもブーイングにも一切耳を貸しません。
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