たったひとりの君にだけ

けれど、驚きつつもそれを決して表には出さない。
この場所にいるだけで、私は充分彼の言いなり状態だ。

これ以上、樹の思い通りになる必要はどこにもない。


「だよな?芽久美」

「……よく覚えてるね」


ゴクリと一口、体内にコーヒーを流し込む。

なんという香ばしさだろう。
目の前に座っているのがこの男でなければ、もっとしっかり堪能出来たのに。


「そりゃそうだよ。あまりにも想定外過ぎて、忘れたくても忘れらんねえよ。その所為で、俺の華麗なる計画は見事に散ったんだから」

「そんなの私の知ったことじゃない」


即答したのは心からの反論ゆえ。
それでも、あのときの樹の顔は、何故か今も覚えている。

驚いたというより、正しくは。

眉間に皺を寄せた渋い表情の一番上には確実に、信じ難いと描かれていたことを。
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