少女達は夢に見た。
「友紀ね!高校生になったら、演劇部に入って台本を書きたいの!」
 
「もう入りたい高校決まってるの?」

「うん!私立南沢高校!」

そこで私は納得してしまった。

私の住んでいる地区だと私立なら単願で受験すればまず落ちることはない。

だから数学が壊滅的な友紀ちゃんでも問題は無い。
 
「演劇部がある高校って他に無いの?」

「ううん!あるよ!でもね、南沢は演劇部がすっごく盛んで、生徒達が自分で台本を書いてることが多いの!」

そこまで聞いて私は感心した。

このリサーチ力、恐らく学年トップ10に入る子達よりも、詳しく高校を調べているだろう。

「そう言えば、友紀ちゃんの数学の学力は知ってるけど、他はどんな感じなの?」

「う~ん、理科は出来ないかな。成績は下の中くらい?」

まあそんな感じはしてた。

「英語は?」

「リスニングとスピーキングだけなら何とか」

筆記が出来ないのか。

それもなんか納得。

「社会はまあまあかな。ギリギリ平均点くらい?」  

「なるほどね。」

「うん」
 
「じゃあ国語は?」

私がそう問うと、友紀ちゃんはバツが悪そうに指を3本立てた。  
  
まさか……3点?
 
「こないだの順位は3位だった……。」
  
「え!?クラスで?」
 
「一応、学年で……?」

「まじか」

凄まじい衝撃だった。

話を聞いてみると、友紀ちゃんは小学生の時から国語だけずば抜けていて、6年生の時には既に漢検3級を持っていたらしい。

今はこれといったテスト勉強をすることはなく、通常運転でその順位らしい。

「人は見かけによらないな~。」

「えへへ。でしょ?」

思えば私はどこか友紀ちゃんを下に見ていたのかも知れない。

でも友紀ちゃんにはちゃんと考えがあって、私とは違い、やりたいこともハッキリとしている。

「尊敬……。」

「そんなそんな!」

私が友紀ちゃんを尊敬の念を込めて見つめると、彼女は恥ずかしそうに言葉を続けた。

「それにね、南沢は友紀の初恋の人の母校なの。」

顔を赤らめて言った。

「へえ~!初恋の人!どんな人だったの?」

「友紀、小学4年生の時からちょっと演劇をやってたんだけどね?そこに、そのとき南沢高校の生徒だったその人がたまに稽古を見に来てくれてたの。」

「うんうん。」

「はじめは全然笑わなくて怖そうな人だなって思ってたんだよ?でもね、たまたまその人が出る公演を観に行くことがあって!」
 
図書室で話すにしては大きな声量で友紀ちゃんが話始める。
 
まあ、私達の他に誰も居ないからいいか。
 
「その人いつもは無愛想で、超クールなんだけどね!劇でやってた警察官の男の役はずーーっとニコニコしてて!“これ誰っ!?”って!」

どんどんヒートアップする友紀ちゃん。

顔が赤い。

「だけどそれは犯人を騙して追い詰めるための演技で、最後は豹変していつもの冷たい感じになるの!冷酷無慈悲なセリフ回し!もう、“どっちが悪役ー!?”みたいな!!?」

そこまで話終えると、まさしく恋する乙女のように顔を手で覆った。

可愛いな。
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