少女達は夢に見た。
「舞台が終わる頃には、友紀、恋に落ちてたの……。」

友紀ちゃんはうっとりと目を細めた。
 
「青春だねぇ。」

つい、私はお年寄りのような言い方をしてしまった。

「一瑠は?」

「ん?」

「一瑠は居ないの?好きな人」

あまり得意じゃない質問を投げかけけられて、言葉が出ない私に、友紀ちゃんは続けて言った。

「一瑠キレイだし、面倒見も良いから、モテるでしょ。」

「まさか。キレイじゃないし、ただお節介なだけだよ。」

「でも告白されたことはあるでしょ?」

「まあ……小学生のときにならあるけど。」

でも正直小学3年生の時に告白されたのをカウントしていいのか分からないし、小学5年生のとき幼馴染みからされた遠回しな告白もカウントしていいのか分からない。

「みんな恐れ多くて告白出来ないのかな。」

「そんなことは無いって。


単純に私がモテないだけだ。

別にモテる必要もないし、構わない。

「じゃあどんな人が好きなの?タイプとか!」

「タイプ……?うーん。明るくていつも笑顔で……真っ直ぐな人かな。あと、スポーツできると格好いいなって思う。やっぱり自分にない物を持ってると惹かれるかな。」

思ったよりスラスラと言葉が出てきて、自分でもびっくりした。

「なるほどなるほど。そっかあ……。じゃあ浅間君みたいな感じ?」

「え?」

その名前が出て来るのは久しぶりだな。

すっかり忘れていたけど、去年の今頃、彼のことを少しだけ良いなと思っていた。
 
友紀ちゃんはなかなかに洞察力があるかもしれない。

演劇の台本を書いているから人の心のことに関して鋭いのだろうか。

「あれ?違った?」

「ううん。まあ、大体そんな感じ。」

「好きな人居ないんだね。」

「うん。」

友紀ちゃんは机の上に手を伸ばして、 

「恋かあーーー。」

とこぼした。

「友紀ちゃんはその初恋の人に告白しなかったの?」

「出来ないよー。友紀、小学生のときは今ほど積極的に人と関われなかったから……。」

「そっかぁ……。」

友紀ちゃんも昔は人見知りしたのかな。

なんか意外。

「連絡先は?」

「知らなーい。その時小学4年生で、友紀まだケータイも持ってなかったから。」

「あー……。」

友紀ちゃんが机に項垂れるようにしていた体を起こしてこちらを向いた。

「きっとまた会えるよ。」

無難な励ましの言葉をかける。

「うん。友紀ももう会えないなんて思ってないよ!」

笑顔でそう言った彼女が眩しかった。

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