少女達は夢に見た。
まさか部長と山吹先輩がそんな人だったなんて…。


「気持ち悪い?」


口をあけたまのアホ面の私に千尋先輩が不安そうな顔をして聞いた。


「そんな風には…思ってないです。」


その前に驚きすぎて。


そこまで思う余裕がなかった。


先輩はほっとしたように見えた。


先輩が立ち上がるから、私も立ち上がって靴箱へと並んで歩く。


てか本当に…そんなのあるんだ。


男女のお付き合いでさえ、クラスに1組か2組いるくらいなのに。


女同士のカップルなんて。


「一つ、聞いていい?」


まだ唖然としている私に真剣な顔で尋ねる。


黙って頷いた。


「どうして今日、遅刻したの?」


「それは…。」


千尋先輩に聞かれるなんて…意外だった。


「理由なんてありませんよ。ちょっとのんびりしてしまったんです。すみません。」


目を合わせないようにして、言った。


「そうなんだ。」


先輩が私の顔を見てきているのはわかっていた。

だけどそのまま、目を合わせないようにした。


「サボったりするような子じゃないと思ったのにな。」


先輩は、私が嘘をついたことを分かってる。


がっかりしたように見せて、本当のことを言わせようとしてるんだ。


それが分かってしまった私は、なにも言えなくなって。


苦笑いをすることしか出来なかった。


下駄箱について、先輩は三年の棚に消え、またもどった。


「先輩、さようなら。お疲れさまでした。」


靴を履いた先輩に挨拶する。


「ん。」


いつも通りの愛想無い返事。


だけど、安心した。


良かった。


嘘ついたこと、怒ってないみたい。


胸を撫で下ろした私に、すでに背を向けていた先輩がふりかえって一言。

「なんでも言っていいからね。」


少し微笑んで。


先輩の笑顔を見れるのはほんとにたまに。


先生に褒められたときとか、友達と話してるとき。


ふと見た先輩が笑っている横顔とかしか知らなかった。


それだって2、3度なのに。


先輩が初めて私に笑いかけてくれた。


(先程長岡先輩と言ってしまた時もうすら笑みを浮かべたけど。)


嬉しくて、つい返事をするのを忘れてしまった。

帰っていく先輩の後ろ姿を呆然と目で追う。


もしかして、泣いてたってこと気づいてた?


まさか、とは思うけど、先輩が気遣ってくれたことにはかわりなくて。


千尋先輩、本当に素敵な先輩だなー。


「あ、一瑠ちゃん。」


下駄箱にやってきた歩乃香。


そっか。


今部活が終わった所。


「歩乃香、お疲れさま。」


「一瑠ちゃんこそ。美術部の活動お疲れさま。」

柔らかな笑みを浮かべながら言われた言葉で思い出した。


部長と山吹先輩のこと。

「ごめん。ちょっとびっくりしたこと思い出しちゃって。」


反応し遅れたのを取り繕う。


「どんなこと。」


「あ、うん。それが先輩がさ…。」


そこまでいいかけて口を閉じた。


あれ。


これって歩乃香に教えてしまってもいいのかな。

千尋先輩があまりにも簡単に暴露したから、歩乃香にも簡単に教えてしまいそうになってしまった。
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