少女達は夢に見た。
でも先輩はないしょだと言ったし。


せっかく先輩との距離がちょっとだけ縮まったような気がしたのに、


ここで話してしまえば、信頼を失ってしまう。


いいかけてしまったものを止めるのは申し訳ないけど…。


「ごめん。なんでもないんだ。」


そっかと、笑う。


なんか会話続けなきゃいけないような気がして。

つい、聞いてしまった。

「歩乃香はさ、女同士のカップルって…どう思う。」


いきなりの質問に目を丸くする。


そうだよね。


歩乃香にとってはなんの脈絡もない質問だもの。

撤回しようとしたとき、

「一瑠ちゃんもそういうのに興味あるんだね。」

意外にも、歩乃香はこの話題に食いついてきた。

「え、うん。まあまあ有るかな。」


歩乃香の言う“そういうの”の定義がよく分からなかったけど。


ふーん、と言いながら靴を取りだし、上靴から履き替える。


「一瑠ちゃんはどう思うの。」


質問を質問で返されてしまった。


しかもこの質問は今日2回目。


「ありだとおもうよ。私は。気持ち悪いとかは思わないかな。」


安心したように笑った。

先輩と全く同じ反応。


質問が同じで、答えた内容が同じなら、反応も同じってわけか。


でもなんで二人とも私が女同士に偏見が無いと安心するんだろう。


千尋先輩は身近にそういう人達がいるから分かるけど。


歩乃香は?


「そういえば女同士の有名なカップルがいるよね。」


そこまで言って、やっと私達は靴を履き終えた所から歩きだした。


「え。私知らない。」


当たり前のように歩乃香は言ったけど、私はそんなの知らない。


聞いたこともない。


「嘘ー。一年生だって一部の子は知ってるよ?」

それ一部の子、でしょ。

「アキだって知ってるし…本当に知らないの?」

まじか。


信じられないといった顔をする。


私も信じられない。


そんなに噂に疎かったけか。


あ。


そうだ。


聞かないようにしてたんだ。


噂話とか。


「確か美術部の先輩だったよ?」


…!?


それって。


「部長と山吹先輩…。」

「そう!そのお二人。なんだ、知ってるじゃん。」


いやついさっき知ったんですけど。


有名だったんだ。


どうりで千尋先輩が簡単に教えてくれたわけだ。

じゃあ隠す必要なんて無かったじゃない。


ううん。


言わなくて良かった。


もしそのまま言ってたら、


今更知って驚いたの?


とか思われたに決まってる。


良かった。


要らん恥をかかずにすんで。


「歩乃香は?どう思ってるの。」


もう門に着いてしまった。


歩乃香とは帰り道が逆方向のため、そこで立ち止まって話す。


「あ、うん。」


それだけ言う。


まだ続きがあるのかと思って待ってみたが、それ以上なにも言わない。


私と同じらしい。


変な沈黙ができる。


歩乃香は自分からなにか言うつもりはないみたいで。


「じゃあ、もう帰るね。」


私から切り出した。


歩乃香は少し迷った様子を見せてから、


「あの、余計なお世話かも知れないけど。」


あ、何を言われるか分かった。


「なに。」


それでも此方の顔色を伺うようにオドオドと切り出す歩乃香が可哀想で。

やさしく尋ねる。


「柚奈のこと、元気だしてね。」


頷いて歩乃香と別れた。

また、気を遣わせちゃった。


柚奈のこと、どうしょうか。


考えていると、あっという間に家についた。

< 33 / 106 >

この作品をシェア

pagetop