少女達は夢に見た。
あのときは、聞くのが怖くて。


聞くことで、何かが変わってしまうような気がして、聞けなかった。


だけど。


もし。


もしあのとき、勇気を出して聞いていたら。


“どうしてそんな顔するの”


そう聞いていたら、今よりは辛くない未来があったかもしれない。


柚奈の気持ちを、理解できたのかもしれない。


そんな考え方は、おこがましいだろうか。


それでも、


「“どうしてそんな顔するの”」


聞かずにはいられなかった。


「一瑠ちゃん…。」


歩乃香は、視線を泳がせた。


「なにか、隠そうとしてる?」


膝の上に置かれている自分の手に、視線を落ち着かせる歩乃香。


図星なんだ。


「わたし、ちょっとずるいこと考えちゃった。」

歩乃香の声が震える。


「ずるいこと?」


ゆっくりと首を縦に振った。


「一瑠ちゃん、ごめんね。」


話が分からない。


だけど、何が、なんて聞けない。


今にも歩乃香は泣き出しそうで。


膝に置かれた手は、いつのまにか握りしめられていた。


「はやく、仲直りしてね。」


笑顔を、向けた。


さっきの笑顔とも、いつもの笑顔とも違う。


切ない笑顔。


それでも嬉しそうな。


「二人が仲良くないと、調子狂うよ。」


「うん。そうだよね。柚奈は、柚奈じゃないと。」


歩乃香はもう一度、笑って見せてくれた。


いつものマーガレットの笑顔。


「ありがとう、歩乃香。」


私が歩乃香を抱きしめようとしたと同時に、


歩乃香からも抱きついてきた。


鼻をすする音がして、泣いているんだと思った。

なんで泣くの。


どうして歩乃香が泣くの。


意味が分からない。


でも分からなくても、


私は、目の前の少女をなだめようと必死になった。

「ありがとう。」


そう何度も囁いて、背中を撫でて。


口をぎゅっと、


かたく結んだ。


これが、あのとき私が聞いていたら、こうなっていたという未来なのか。

柚奈は、こうやって抱きしめながら泣いてくれたのだろうか。


柚奈は、私のまえで泣かなかった。


柚奈もきっと傷ついてる。


一人で泣いているのかもしれない。


歩乃香は私に、そんな風に思わせてくれた。





「ごめんね、迷惑かけちゃって。」


体を離して、鼻を赤くした歩乃香が恥ずかしそうに言う。


その仕草や表情が、可愛くて、可愛くて、仕方なかった。


「大丈夫だよ。」


「やっぱり、笑ってるのが一番だから。」


「うん。」


無意識に頷いた。


「笑顔が、大切なの。」

そう言っている歩乃香の笑顔がとても綺麗だった。


「…なんの話?」


つい、頷いちゃったけど。


なにも言わずに、ただニコニコと笑う歩乃香。


「あ、うん。そうだね。」


多分、柚奈のことだろう。


それから歩乃香は、ずっと嬉しそうで、


なんだかこちらまで、笑顔になった。

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