少女達は夢に見た。
「ごめん遅れた!」


待ち合わせ時刻から5分ほどたったころ、ようやく柚奈が到着した。


「おそい。5分遅刻」


「ごめん一瑠……みんなも。」


家を出てからずっと走り続けていたようで、息もきれぎれだった。


「主催者が遅刻してどうすんのさ。」


先程まで歩乃香に説教を食らっていたアキが、


自分にされたことを八つ当たりするように責める。


「寝坊?」


怒った様子も見せずにそう問いかけたのは歩乃香だった。


すかさずアキが反応する。


「なんでぼくのときは“10分前には来い”とか言うくせに5分遅刻してきた柚奈にはなにも言わないんだよ!?」


「だってアキだから。」


即答。


あまりの速さとその答えにアキは絶句していた。


本当仲良いな、この2人。


答えるタイミングを失った柚奈が、遠慮ぎみに注意を向ける。


「ごめん。ちゃんと起きたんだけどさ、本探してるうちにいつの間にか……。」


「本?」


本の虫が聞き返す。


だけど柚奈はアキではなく、私に顔を向けた。


「はい!“どぶ川”、読み終わったよ!」


約束していたあの本を、元気よく差し出した。


“ケータイのどぶ川”


“どぶ川”と略すのはどうかと思う。


2人とも変な顔してるし。


「どうしても今日渡したかったんだよねー。読んだら感想聞かせてよね!」


満足気な笑顔。


てっきり本の虫が「ぼくも読みたい」とか言うと思ったけど、


そんなことはなく、代わりになぜかニヤニヤと笑ってきた。


「なに?」


無性にイラついて聞いてみる。


「いんやー?柚奈ちゃん可愛いなーと思いまして。仲良いねぇ、君たちぃ。」


なんだか…


この間のやり取りが全部見透かされたような気がして、


アキの目を真っ直ぐに見ることができなかった。

なんて勘の鋭い人なんだろう。


本の虫なだけはある。


洞察力は並みじゃない。


「ほら、みんな集まったし行こうよ!」


なかなか歩き出さない私達に、歩乃香が声をかけた。





道が狭いため自然と二列になる。


そして私達の自然な二人組はアキと歩乃香、柚奈と私。


いつも決まっていた。


もともとアキ達とは小学校が違うし。


それに学校でいるときだって、4人で行動するときと、そうじゃないときがある。


特に部活が同じというわけでもないが、いつのまにか仲良くなっていた私達。


前の2人組は先程の歩乃香の発言に対しての論争をしていた。


……でもきっと歩乃香は言い争っているつもりはない。


「ねぇねぇ、一瑠。」


「ん?」


「昨日の夜、ちょっと変なもの見つけたんだけどさ。」


こちらは心理テストの話になった。


外に出掛けると、屋内で喋っているときよりも話が弾む気がする。


なぜだろう。


ときよりすれ違う散歩中の犬に、アキと柚奈がいちいち反応していた。


私と歩乃香は細道に入ったノラ猫に反応。


似た者同士のペアなのかもしれない。


7月の暑さに、一筋の汗が伝い、アスファルトに落ちる。


ジーパンのアキは暑くないのだろうか。


ふと、そんなことが気になった。

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