少女達は夢に見た。
柚奈が遅れてきてくれたおかげか、開店時間から少しずれたカラオケ店の受付はそれほど混んではいなかった。


「フリータイムで。」


慣れてるみたいにそれだけアキが言って、私たちは学生証を提示。


店員さんが部屋まで案内してくれる。


4人ということもあり、それなりに広い。


早速柚奈がソファに勢いよく座った。


柔らかいソファが“バフン”と沈む。


「先にドリンク入れてこようよ。」


私の提案。


せっかくフリードリンクなんだし。


飲まなきゃ損だよ。





「よし!じゃあ誰からいく!?」


無駄にテンション高くなるよな、柚奈って。


カラオケ来ると。


嬉しそうにマイク回してるアキも同じ……か。


マイクはひと部屋2本。


ちょっとボロいのと、かなりボロいの。


さりげなくちょっとボロい方を柚奈に渡すアキ。



「じゃああれ、入れる?」


「よし来た!アキ!」


最初はアキと柚奈のデュエット。


お馴染みの2人の得意曲。


お風呂でふと口ずさんでしまう位には聞かされてる歌。


入れてきたオレンジジュースをすする。


ちらりと横を見た。


歩乃香はアイスティーを入れてきたらしい。


目が合うと、クスクス笑われた。


「……どうかした?」


「ううん、別に。ただね……。」


そこで私の手にしているガラスコップに視線を向けた。


「一瑠ちゃんって、オレンジジュース、好きだったんだね。」


「え、うん。好きだけど。」


歩乃香?


子供っぽいって思われたのかな。


人差し指でこめかみをかじってみた。


そんな仕草ひとつも笑われている気がしてきて、なんだか落ち着かない。


「ほらほら二人もなんか入れなってさー!」


1曲目を熱唱し終えた柚奈が、私と歩乃香にふってきた。


「……だってさ。なにか歌ったら?」


「わたしは聞いてるだけでいいから。一瑠ちゃん歌いなよ。」


「そう?でもちょっとくらい歩乃香の歌も聞かせてよね。」


じれったくなったのか、柚奈は私の目の前にあった精密機械を奪った。


――ピピッ


手早く曲が転送され、採点中の画面右上にタイトルが表示される。


「え?」


戸惑う私に、


「これなら2人とも知ってるし、歌えるよね?」

マイクを押し付け、いたずらっぽい笑みを向けた。

そんな私達を気に留めることもなく、

「お!しょっぱなから89点やて。こりゃ自己ベスト狙えるね」


興奮気味なアキ。


多分柚奈と一緒じゃなかったら90いったんだろうな。


柚奈少し音痴だし。


楽しそうに歌うから、柚奈の歌は好きだけど。


「一瑠?なにニヤけてんの?」


「べ、つ、に。」


柚奈からふいっと顔をそらせば


タイトルが画面中央に映し出されていた。


カラオケ独特の、ちょっと昭和チックな字体。


「ほら、歩乃香も歌うんだよ。」


柚奈が私にしたように、アキも歩乃香にマイクを押し付けた。


「え?」


それに私と同じように戸惑う。


懐かしすぎるアニメソングの前奏がながれてきた。


あ。


アニメ映像なんだ。


ちょっと興奮。



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