少女達は夢に見た。
「ぱちぱちぱちー!」


歌い終えると、拍手しながら口でも言う柚奈。


拍手も幼稚園児のような拍手だ。


これはツッコむべきなのかな。


「一瑠ちゃん、声綺麗だね!」


「え!?あ、歩乃香の方が……女の子らしくて可愛かったよ。」


真っ直ぐに“綺麗”とか言われるの、なんか恥ずかしい。


アキは採点画面を見つめながら、ソファの上で体育ずわりになり、唸っていた。


「ねぇ、柚奈。」


「なに?アキ。」


「なんでコテコテのアニメソングでも、いっちーと歩乃香が歌うと、こうも大人っぽいんだろ?」


褒められてるのかな?


「んー……。わかんない!」


柚奈は私達を歌わせることができて満足だったらしく、そんなことはどうでもいいといった様子だった。


88点……か。


うろ覚えの割にはいいんじゃないか?


「うーむ……。」


口に手をあてながら唸るアキは、まるでホームズみたいだ。


「ポテトとか頼む?」


「たのむたのむー!!」


歩乃香の提案に真っ先に食い付いたアキ。


顔を勢いよくあげる。


「ぼく、サワークリームのディップね!」


食べ物には貪欲なのかな。






「歩乃香、アイスティー好きなんだね。」


飲み物を取りに行った歩乃香は、またもやアイスティーをチョイスしていた。


3杯目のアイスティー。

飽きないのかな?


自分の手に握られたリンゴジュースと見比べた。

「アイスティーっていうか、紅茶が好きなんだよね」


「なるほどね。確かに似合う。」


「そ、そうかな?」


テラスでロイヤルミルクティーと、ミルクレープで優雅にお茶してそうだ。


アキは何を歌うか探していて、柚奈は相変わらず熱唱中。


交互に見てから、もう一度歩乃香に視線を移した。


「一瑠ちゃんはフルーツジュースが好きなの?」

「うん。」


「炭酸は嫌い?」


「え?」


「だってさっきから、オレンジジュース、グレープジュース、次はリンゴジュースだし。」


そう言いながら、私のコップを見つめた。


よくひとの選んだ飲み物、3回分も覚えてるな。


「まあね。好んでは飲まないかな。たまに飲むくらいで。」


「そうなんだ。アキたちとは反対だね。」


「そうかも。」


そう言って2人でクスクス笑った。


アキはコーラ一筋で、柚奈はメロンソーダにカルピスソーダ。


お皿に盛られたポテトをサワークリームにつけて食べた。


まだアツアツだ。


「ん……おいしい。」





あれからずっとアキと柚奈で交互に歌い続けているが、2人はまだまだ元気だ。


よくもそんなに歌える歌のレパートリーがあるものだ。


「一瑠ちゃん、もう1曲くらい歌ったら?」


「歩乃香こそ。」


そろそろ空になるリンゴジュースを一口。


次、なににしようかな。

「私、飲み物入れてくるね。」


「飲むの早いね。」


歩乃香のアイスティーは、まだ半分以上残っていた。


「あはは……」と笑いながら部屋を後にする。


すぐ目の前にドリンクバーコーナーがある。


あれ……人がいる。


飲み物をいれようとしたけど、なんだか混んでる。


ショートカットの女の子と、二つ結びの女の子。

私達と同じくらいの歳かな。


少し距離をあけて、並ぶ。


この二人、部長と山吹先輩に似てるよなー。


そんなことを考えながら、斜め後ろ45度の角度で、誰かも知らない2人をガン見していた。



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