少女達は夢に見た。
なんだ。


この感じ。


胸があったかい。


じんわりと、染み込む。


「よかった」


安心したと笑う。


「私、こそ…」


意識しないでも、顔が緩む。


「お礼言われる様なことは、なにもないよ」


「いえ。一瑠さんはみんなの気持ちを代表して伝えたんですよ」


「でも…彼女を傷つけちゃったよ…」


「服部さんなら、きっとすぐに立ち直りますよ」

そうかな?


根拠を聞きたかったけど、ドア付近の渡辺くんに早く来るよう急かされて、出ていった。


はや足でもなく、普通に。





こんなに、あっさりしているものなの?


私、色々言ったけど。


1ヶ月、目も合わせていなかったけど。


それにしては、あれだ。

あまりにあっさりしている。


だけど明日からは彼と普通に話せるのだと思うと、無性に嬉しくてしょうがない。


体が熱っぽいのは、けして異性として意識しているからじゃない。


単純に、感動していた。

友愛。


そんなところだろうか。

違うな。


柚奈のことを、思い出したからだ。


あのときの、彼女との会話。


冷たい刃物みたいな目も、勇気を出してかけた電話も。


無意識にリンクした。


柚奈を傷つけたこと。


それが、すべて許されたような気がしたんだ。


どうして?


なんで風見くんと仲直りすることがそれに繋がるの?


自分でも分からない。


どうしてだろう…





「一瑠?機嫌よさそうだね」


「あ、わかる?」


一緒の帰り道、口元が緩んでいることを、柚奈に気づかれてしまった。


「意外と顔に出るタイプなんだね」


柚奈は笑う。


でもね、違うよ。


別に隠そうと思えばいくらでも隠せるよ。


だけどね、機嫌が良いときには、気づいてほしいの。


だから、隠さないだけで、別に顔に出やすくなんてないのに。


“気づかれてしまった”が、気づかれて“しまった”とは思っていない。

「でー?なにがあったの?」


なのに得意そうな顔をする柚奈が、ちょっとおかしい。


「あ…はい」


ニヤニヤしながら聞くけど、


柚奈に風見くんと仲直りしたって、笑顔で伝えていいのかな。


嫌な思いしない?


嫉妬しない?


心配で、口角が下がっていき、


テンションも落ちていく。


「風見くんと…仲直りしたの」


あきらかに目をそらしながら、言った。


1、2、3…自分のなかですこし速いカウントがとられる。


柚奈が答えるまでの間。

次第に心拍数が上がっていく。


「え?まだ続けてたの!?」


「………は?」


「一瑠真面目すぎだってー!言ったじゃん!あたしもう好きじゃないよ?」


拍子抜け。


一気に肩の力が抜けた。

「そっか…」


「かえって悪いことしちゃったね。ごめん」


失敗したときの笑顔。


あはは、と笑う柚奈の姿に、


「ううん、全然」


おそらくひきつっていた笑顔で返した。





「今日さ、また3送会会議があったんだけど、そのときにさ」


部活での、さっきまでのことを、ご機嫌で柚奈に話した。


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