少女達は夢に見た。
「ねぇねぇ、聞いてよ」

家族団らん中、恵瑠が生き生きとした目で言った。


時刻は19時30分。


もうすぐ帰ってくるから待っていようと、


お母さんが言い出したものだから、お父さんを待つことになり


お母さんの“もうすぐ”は1時間をこえても意味するのだと知った。


「今日さ、学校でね」


返事を待ちきれずに言葉は続けられた。


軽く相づちをうつ。


「五時間目が算数だったんだけどさ、クラスでみんな分かんなかった問題を、分かった人がいたんだよ。一人だけ」


算数か…懐かしいな。


最近になって“数学”と“算数”をいい間違えなくなった私が、懐かしいというのも違うような気がするけど。


「誰だと思う?」


厚揚げを咀嚼。


ちょっとしょっぱい。


飲み込んでから恵瑠の方に顔を向ければ、同じ質問を繰り返した。


「男?女?」


お父さんが会話に加わってきた。


まさか本気でいってるわけじゃないだろうけど。

無邪気な息子に付き合ってあげてるんだろう。


お母さんは微笑ましそうに笑うだけで、それはそれで恵瑠としては面白くないはずだ。


「どっちだと思う?」


質問を質問で返すのにも嬉しさが滲み出ている。

「さあ。男じゃないか?女は理数が苦手そうだし」


「そうでもないけど」


お父さんの方を見て言った。


「一瑠は俺に似て頭がいいから」


あまり嬉しくないよ。


失礼だけど、お父さん賢く見えないし。


「正解!ねぇ誰だと思う?」


恵瑠が、早く答えろとばかりに話の方向を無理矢理に戻した。


「……恵瑠?」


笑いそうになるのを堪えながらも、平静を装った私が答える。


「ファイナルアンサー?」


「ファイナルアンサー!!」


便乗してきたのはお父さんだ。


相変わらずお母さんはニコニコとしているだけ。


「じゃあこの一千万には、もう戻れません!」


箸で突き刺した、お弁当の残りのミートボールを高く挙げた。


食べ物を箸で刺すなよ。

その前に一千万なんてないだろう。


タイミングよくテレビでやっていたバラエティー番組がコマーシャルに入った。


そしてミートボールをぱくり。


口に頬張る。


ごくり、と飲み込み


「正解!!」


顔をくしゃくしゃにして笑った。


うん、始めから分かってたよ。


「へぇー、すごいな」


お父さんも分かってたよね?


恵瑠あんなに分かりやすいのに、わからなかったわけないよね。


「見直した?」


「見直した、見直した」

とても満足そうな弟をみれば、もうどちらでもいいような気がするけど。

「恵瑠も俺に似たんだな」


やはり少々子供っぽいような気がする。


「じゃあご飯食べ終わったら、恵瑠がお姉ちゃんの勉強を見てあげたら?」


「お母さん?」


口を開いたかとおもえば、なにを言い出すんだこの人は。


「最近一瑠油断してるみたいだし。お母さんから言うのも…ね?」


母は強し。


笑顔だからこその圧が。

「うん、わかった!」


恵瑠を調子にのらせないでよ。


渋々と階段を上がる私の後ろを、軽快な足音をたてながらついてきた。



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