少女達は夢に見た。
結局、材料費がかさむから…という理由で、肝心の人形はやや手抜きの段ボールで作ることになった。


その結果は、まあ最初から見えてはいたさ。


「一瑠はさ、どんな話が良いと思う?」


いまだに順応しきれない友紀ちゃんのキラキラルームで、二人だけ会議が行われる。


日曜日だというのに、私も暇人だな…。


会議の議題はシナリオ。

「先輩たちに感謝の気持ちが伝わるような話がいいんじゃないかな」


机の上においたままオレンジジュースをストローですすると、肩まで使って頷いた。


「それだね!」


「感謝の気持ちが伝わるようなシナリオ…」


言ってみたはいいけど、難しいな。


「じゃあこんなのはどう?」


頭の回転はや…。


私にはとても思い付けない。


スケッチブックを取り出し、さらさらと書き出す。


絵も交えて。


――――――――――――

あるところに、二人の若者がいました。


二人は仲の良い兄弟でした。


その若者の国には、悪い魔女が古くから住み着いていました。


頭をかかえた王さまは、ある日二人に命じます。

魔女を倒した方には、褒美として、娘の婿にしてやろう。


――――――――――――


“起”と丸でかこまれたそこに、ずらずらと並べられた字を黙読。


一部、読めない字があるけど勘で読み進める。


「それで、今まで協力して生きてきた二人だけど、独立して戦おうとするの」


「うんうん」


「だけど結局一人じゃなにも出来なくて、魔女を怒らせちゃって、その国は滅亡へとまっしぐら!!」


「え…?」


「メッセージとしては、“協力しなきゃ生きていけないよ”…どうだ!?」

うっとうしい位に眩しい笑顔を向ける。


考えるより先に私の手は、手近にあったドぎついピンクと黒のストライプのペンケースを掴み、友紀ちゃんの頭を叩いていた。


「あ、ごめん」


本気かボケなのか、分からないのに。


叩いてしまった…!


微妙な空気が、渦巻く。

片手で頭を押さえた友紀ちゃんがこちらを、じわり、じわり、と、むく。

それはまるで悪霊のような所作!


「あの、え…あ…大丈夫?」


「一瑠…」


「はい!」


背筋を伸ばし、座り直す。


「華麗なツッコミ!そんなあなたに恋をしました!」


……カナンに嫌われてる理由、なんだか酷く納得できた。


ずれてるんだろうな、周りと。


生暖かい視線を注いでみる。





「滅亡じゃなくて、ハッピーエンドにしようよ」

話の脱線を、これ以上拡げるわけにはいかない。

「ハッピーエンドか…」

「例えば、この話なら――」


一通り自分の考えを伝え終えて、ハッとする。


なんか私、いま凄く勝手に一方的に話してなかった?


ゆっくりと友紀ちゃんの顔を伺えば、笑いをこらえている。


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