少女達は夢に見た。
第10章 嫉妬
「今日も暑いねー。」


そう言いながら首にかけたスポーツタオルで煽るアキ。


定位置であるロッカーの上に腰掛け窓を眺めてる。


私はそんなアキを見つめつつ、言った。


「大変だね、陸上部。」


その目は、確かにグラウンドで走る人たちを映していた。


次の授業が体育なんだろう。


おそらく1年生かな。


こんなに暑い日に、体育でさえ嫌なのに、部活でも外で走らなきゃいけないなんて。


「うん。走るのは楽しいけどさ。」


「格好良いね、アキは。」

人としてというか、かっこいい。


「走ってればね。」


「余計なことを……。」


相変わらずな態度で話に参加する彼女。


アキを無視して私の隣、机に寄りかかった。


「歩乃香……。」


アキには挑発的な笑みを向けるから、私はただ苦笑い。


「一瑠ちゃんもそう思うよね?」


「あ、でもアキは、走ってなくたって、かっこいいって言われてるよ?」


一応アキにフォローを入れた。


彼女は体育のとき、ボール投げるだけで歓声があがったりする。


この間はすれ違い様に、“アッキーだー !、かっこいいー!”とか言われていた。


それに対するアキの反応が、またなんとも爽やかだったな……。


きっと女子高行ったらモテるタイプだ。


プリンス化するタイプだ。


「騙されてるんだよ。」


「それは歩乃香の方じゃん。」


「え、なにが?」


「……歩乃香め。」


冷戦。


もうこれもいつもの光景。


初めて見たときはちょっと驚いたけど。


アキじゃなくて、歩乃香の性格の変わりように。

喧嘩じゃないだろうけど、喧嘩するほど仲が良いってやつかな。


「一瑠、行こう。」


急にやって来た柚奈が、しみじみとしていた私の腕を引っ張る。


「え……柚奈?」


「次体育だから。」


“なら別にアキたちと一緒に行けばいいのに”


言う間もなく連れ去られた……。


なんなんだ?





そのあとも、不機嫌なようで、機嫌がいいようで。


よく分からなかった。


あからさまに怒っていたとしても“なにか怒ってる?”なんて訊けない。

友達だけど訊く勇気がない。


私が知らない間に怒らせてしまったのかもしれないし。


そういえば……私は昔から、知らない間に人を怒らせていたような気がする。


……私ってそんなに人に不快感を与えてしまう人間なのかな。


ちょっと悲しい。


隣で着替える柚奈を横目で伺うけど、そこまで嫌われてはいないはず……だよね。


「次なんだっけ?」


「え?あ、えー。数学かな?」


私が答えると、柚奈は露骨に嫌そうな顔をした。


まあ、嫌なんだろうね。


知ってる。


たぶん柚奈は音楽以外、全部同じ反応なんだろうけど。


「また一瑠のところ行くから。」


「最初から先生に聞けばいいんじゃない?」


そう言うと、口に手を当てて、“まあ!”という顔をした。


「冷たいこと言わないでよー 。定期テスト42点ー。」


「さりげなく人の点数をバラさないでよ!!」


柚奈のせいでこの場で着替えていた女子全員に、うっかりミスで8点失った私の数学の点数がばれてしまった……。



柚奈の点数も晒されればいいのに。


16点め。

< 85 / 106 >

この作品をシェア

pagetop